日別アーカイブ: 2010/9/15 水曜日

海の中の世界と星の流れる世界、僕はその間をこうして旅をしてる。

前回の旅日記はコチラ「いつかその時に巡りあえることをただ待ちわびて

昨日からずっと不安だった。

自分でやると決めたこと、さらに2万円も払うと決めたことにも関わらず、不安な気持で一杯だった。ただ、スキューバダイビングをするだけなのに。

スキューバダイビングのオープンウォーターライセンスを取ったのは5,6年前のタイのタオ島だった。当時知り合った旅仲間がダイビングがとても面白いと言うことを教えてくれて、僕も海の世界を知りたいという欲望にかられて取りにいった。

けれど、もともと自分の体に動力のついた人工物や機材などをつけることが好きではない。それは自動車やバイクといったものからジェットコースターなどにいたるまで。自分がコントロールできる以上のエネルギー(可能性)を持ったものを身体にまとうことに対して恐怖心を覚える。これは本能的に感じてしまうのだから、どうしようもない。

送信者 小笠原

だからスキューバダイビングよりも素潜りに魅了される。より肉体が自然なカタチで、自然と触れ合うのが一番対等な付き合いで楽しめると思うのだ。もっとも繊細な感覚で自然を感じられる。だから、ジャックマイヨールという男に惹かれるのだ。そう、彼の言葉を借りるするならば、

ジャックマイヨールという男の精神のいちばん奥にあるのは、何かしら偉大なものに近づこうという意志、自分の内なる力によってそれを実行したいという欲望らしい。宗教は自分の外に敷かれたレールに乗ることだから、その方法を彼はとらない。スキューバと同じで、それは安易すぎる。「クジラが見る夢」P185

一方で新たな世界を知りたかったり、新たな感覚を味わいたいという気持もある。久しぶりに海の中に包まれる感覚を味わいたい。陸上の世界とは違う、宇宙の中に浮かんでいるかのような、地球に包まれた感覚を味わいたいという想いが強くて、今回はダイビングをすることにしたのだった。不安は付きまといながら。

送信者 小笠原

朝起きて、朝食を済ますと8時30分にダイビングショップ「ノア」の車が迎えにきてくれた。母島にはダイビングショップは1軒のみで、かつ唯一のマリンショップでもある。久しぶりのダイビングで、ドキドキしていた。不安だったので、最初は体験ダイビングでもいいですと伝えたのだが、ライセンスを持っているならファンダイブが良いですよ、と言われファンダイブにしたくらいだ。

送信者 小笠原

ダイビングショップに到着して、タンクやウェイトなどの準備。まず最初にインストラクターに自分が久しぶりで何も分からないことを猛烈アピール。教えてもらい、周りの人を見てやっていれば、意外と思い出すもので、心配性な僕は少し不安になりすぎていたようだった。機材を船に乗せて、出港。今日は2本もぐる。まずは1本目。もう、ここまできたら落ち着くのが一番重要だ。無駄に不安になってもいいことはない。冷静に。誰でもダイビングが出来るのだから、俺が出来ないはずがないと言い聞かせる。こういった土壇場ではすぐに落ち着くことができる。特技のひとつだ。いろいろな初めての経験を繰り返してきて、最後は落ち着くのが大切だと知り、精神を安定させる方法を身につけていったのだ。何でも場数を踏むことが大切だ。かなりリラックスして、海に入ることが出来た。

送信者 小笠原

久しぶりに潜水していく。圧の残量やエアの状態を気にしながら。もちろん耳抜きもこまめに。特に問題もなくひと安心。15メートル程の海底に到着すると、カラフルな魚を見たり、岩陰に隠れる伊勢エビやタコを突っついたりして遊ぶ。ふと空を見上げると、太陽の光が水面に反射して輝いている。僕は全身を水に包まれ、何の音もしない、あおい世界の中にいる。ああ、この感覚だ。宇宙にいるような、不思議な心地よい静かな世界。僕のレベルの素潜りでは決して味わうことの出来ない、海の世界の心地よさ。魚を見るでもなんでもなく、この感覚を久しぶりに味わえただけで、ダイビングをして良かったなと思った。

送信者 小笠原
送信者 小笠原

あっという間に30分ぐらいが過ぎ、船に上がる。今回は1本ずつ島へ戻るダイビングスタイル。船で母島のショップまで。すると、船が止まった。イルカの群れを見つけたのだ。それも100頭ぐらいいそうな大きな群れ。船に並走して楽しそうに泳いでいる。ぜんぜん怖がることなく、一緒に泳ぎ、水面に顔を出す。船でぐるぐる回ると、イルカも一緒についてくる。逃げることなく、遊んでいるようだ。

送信者 小笠原

すると、群れの中の2頭が空を舞った。大きく空中をジャンプして回転。2頭が同時に飛んでスピンするから、エンターテイメントショーのようだった。野生のイルカもこんなにも空を回転して飛ぶのかと驚く。この跳躍力はすごい。それも1回や2回ではなく10回ぐらい楽しそうに空を舞う。でも、4、5回目ぐらいから疲れたらしく、ジャンプの高さが低くなった。これもご愛嬌。それにしても、水族館で教育されたイルカじゃなくても、イルカは本能的に空をジャンプすることがあるんだと初めて知った。それも、本当に楽しそうに。人間とじゃれあって遊んでいるようだった。

送信者 小笠原

生き物は無駄な物はないし、無駄なこともしない。生きるために必要だから存在して、そのために行動する。動物の行動はそのような背景で説明されることが多い。でも、今回のイルカの行動や表情を見ていて動物は遊ぶんだとほんとに思った。人間と同じように無駄なことをする。言い換えれば無駄なことばかりする人間はやはり動物なんだと捉えることも出来る。

送信者 小笠原

イルカは空を舞った。もしかしたら遊びではなく、生きるために必要不可欠な行動の何かかもしれない。でも、僕にはそう見えなかった。群れの中で2頭だけ、楽しそうな表情で空をスピンして回った。必要不可欠なら他のイルカも空を舞うだろう。でも2頭だけなのだ。あの笑顔で。そんなイルカの行動を唖然として、興奮して見ていたら僕には遊びにしか見えなかった。そうとしか感じられない行動だった。

送信者 小笠原

あ、昨日のグリーンフラッシュに続き、興奮のあまり写真に撮り損ねた。本当に衝撃的なシーンだったり、印象深いシーンは写真には残らない。その場で見るしかないのだ。死ぬまで忘れない記憶が焼き付けられた。

送信者 小笠原
送信者 小笠原

そして、母島に戻る。2本目のダイビングの準備をして、すこし休憩をはさんで船は出港した。先ほどとは違う4本柱?というスポットに。ここはネムリブカというサメもいるスポット。人は襲わないから安心してみられる。2本目ということもあって、1本目よりも水と親しめた。そして、海の中の世界を楽しめた。海底から上を見上げると大きな岩の間から透明に青く輝く水と魚達が見える。この世界は僕たちが行きている世界とは別世界、別次元にきているように思えてならなかった。ネムリブカを見て、上がった。ショップに戻り、機材を片付け、昼食の弁当を食べて、2時ぐらいに宿に戻った。

送信者 小笠原
送信者 小笠原

宿に戻ると、同宿の1人が2階のテラスでのんびりマンゴーを食べていた。民宿ママヤのご主人は農園をやっているらしく、マンゴーがたくさん取れる。そこで、ただでおいしいマンゴーをたくさんくれるのだ。これが本当に上手い。さらっとしてるけど濃厚な甘さ。小笠原の太陽をサンサンと浴びて育ったマンゴーは格別だった。

マンゴーを一緒に食べた旅人を含め母島に残っている旅人は、みんなそれぞれのスタイルを持ち、一緒にいても気楽だった。もちろん残った4人は全て1人旅だった。僕もテラスでマンゴーを食べながら、いろいろな話しをして、昼寝をして本を読んだ。夕方になると、母島の日課である夕日を見にサンセットシアターに歩いていく。今日は水平線付近に雲があり、グリーンフラッシュは難しそうだった。けれど、それはオレンジ色に染められ、南の島ならではの空を作り出した。

送信者 小笠原
送信者 小笠原

太陽が沈んだ空を見上げると、淡い空に2日月が輝いてた。二日月は僕が一番好きな月だ。あの最小限の輝きと、それでも輝いているという力強さ。そこに究極の美しさを感じる。2日月を楽しんで、宿に帰って夕食。今日の夕食もボリュームたっぷりでおいしかった。

送信者 小笠原
送信者 小笠原
送信者 小笠原

さて、今夜はペルセウス座流星群の極大日。毎年お盆の時期はペルセウス座流星群のピークなのだ。今回はそのためにこの日を母島に滞在することにしたのだ。1人で音楽を聴きながら、旧ヘリポートへ。途中で道はまっくらになり、人影もなくなる。すると、空には満点の星空が輝き、ふと気づくと星が流れている。

送信者 小笠原

爆発してまぶしすぎて目を一瞬閉じてしまうような流れ星は4、5年前の郡上で出会ったことがある。あの時もペルセウス座流星群だった。そんな流星を求めて、ここに来た。旧ヘリポートは寝転がると遮られるものが何もなく、全天を眺めることが出来る。昼間の太陽の熱が残るコンクリートに寝転がりながら、ただ空を眺めていた。ピーク日ということで、島の人も何人かきていた。けれどみんな20分か30分で帰っていった。人が多い間は音楽を聴きながら寝転がり空を見上げていた。

送信者 小笠原

21時も過ぎると人はいなくなり、ひっそりとした真っ暗な世界がやってきた。さてと。ヘッドフォンをはずして、虫の音や風の音を聞きながら、僕は星が流れていくのを見ることにした。様々な方向で、シュー。シューと流れていく。あっ、あっ、と思っていたら星は消えていった。時おり軌跡がとても長い流れ星があり、僕に何か願いがあるとしたら、こんな長い流れ星であればかなえてくれるんだろうと思った。

送信者 小笠原

何に気を使うこともなく、僕は流れ星との会話を楽しんだ。昼間は海の中に潜り水に包まれた。そして今は空の上を流れていく星を眺めている。どちらも永遠に続く宇宙のようだ。僕はそんな二つの宇宙の間で生きているんだと思うと、なんだかうれしく、どこまでも夢が続いていくような気がした。

今さら流れ星に伝える願い事を考えながら、宿へと歩いて帰った。そして、僕は今夜もベッドに入り宇宙の中を旅することにした。