日別アーカイブ: 2010/9/4 土曜日

涙で始まる朝

前回までの小笠原旅日記はコチラ「イルカよ、クジラよ、ウミガメよ。」

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朝、目を覚ますと、今日も空は高く爽やかな風が流れていた。歯を磨き、朝食まで1時間あまり外をブラブラすることにした。島の朝は心地よい。爽やかな朝の空気が体中にゆき渡り、体が軽やかになっていく。すると、昨夜に続いて浜でウミガメが産卵しているという話しを聞く。おかしい。ウミガメは普通夜の間に産卵して、海へと帰っていくはずである。時間を間違ってしまったウミガメなのだろうか、海洋センター前の大村海岸まで歩く。

送信者 小笠原

すると、母ガメが穴を掘り産卵しているところだった。こんな明るい時間に産卵とは、どうしたのだろうか。産卵中は無防備だから他の動物から見つかりづらい夜を選ぶはずだ。この母カメは、何か落ち着かない様子で、産卵し回りを気にしているようだった。でも、自分が危険にさらされることよりも、次の命へとつなぐために授かった卵をしっかりと孵すことをまっとうしようとしている様に映った。

送信者 小笠原

彼女はうなるような低い声を出しながら、涙を流していた。一筋の涙と言うよりは、苦しさをなんとか耐えている涙。どうしてもやり遂げなければならないことを、なんとか成し遂げようと全身全霊をかけているようだった。目の粘膜が解けているのではないのかと思う程の粘り気のある涙が少しずつ止めどなく流れていた。そんな姿を見て、母性の子孫を残すことへの本能的な執着心を感じた。そして、昔、思ったことを思い出した。お産は冒険だと言うことを。

送信者 小笠原

彼女は空が明るくなってしまったことを強く後悔するかのように、落ち着かない様子で両足で卵に砂をかけ、急ぎ足で海へと帰っていった。

送信者 小笠原

7時30分に朝食を食べ、今日はsea-tacというマリンショップのドルフィンスイムツアーに参加する。昨日のように荷物を準備して、コンタクトをつけて、出陣。今日も出港するとすぐにイルカに遭遇した。本当に運がいい。そして、小笠原にはイルカが多い。昨日すでにイルカと泳いでいるので、感覚は掴めている。初めての日よりも、一日寝かせてまたやるとその暗黙値が体にしみ込んでいる。そっと海に入り、イルカに寄り添って泳ぐ。彼らを驚かせないように、ゆっくりと近づき、目でお互いに合図をして泳ぐ。

送信者 小笠原
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やはりイルカと人間はコミュニケーションできるんじゃないかと思う程。イルカは楽しそうにじゃれ合って泳いでいる。僕の真後ろに回って、僕を挟むようにして3頭のイルカがすり抜けていく。一瞬ヒヤッと怖さも感じたが、ただ彼らはじゃれているだけだ。僕も身構えずにいるとまた一緒に泳いだ。しばらくすると、彼らは飽きてしまったのか、かるーく尾びれをキックして遠くへと泳いでいった。

送信者 小笠原
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次のイルカを探しながら船でさまよっていると、イルカの群れがやってきた。次の種類のイルカは一緒に泳げないので船の上から見ているだけ。けれど、かれらも人懐っこく船の真横について並走したり、船の下をくぐってみたりと遊んでいる。その後、またイルカが現れ、海の中へ。次のイルカは人間に対して特に意識することなく自分たちの海の世界を過ごしていた。人間を恐れることもなく、興味を持つこともなく。僕はそんなイルカ達をぼんやりと水中で眺めていた。そして、惚れ惚れとした。あの、無駄のない体と泳ぎは本当に海の中を泳ぐ最も美しい生き物に見えた。

送信者 小笠原
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何だかんだいって、お昼になっていた。今日も波が低いキャベツビーチに停泊して昼食。パンを食べて、水の中へ。カラフルな魚達と一緒に泳いだり、昔沈没した船の残骸を見たりして楽しんだ。ぷかぷかとぼーっとしながら海に浮かんでみたり、インストラクターの方と一緒に素潜りで潜水してみたり、水と遊んだ。別にイルカと泳ぐわけでもなく、水中写真を撮るわけでもなく、熱帯魚やサンゴを見るわけでもない。ただ、海に浮かび、リラックスして水と遊ぶ。これが最も水と親しむ方法である気がした。

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続いて南島に。昨日も上陸した本当に綺麗な島。しかし、今日は沖縄に来ていた台風の影響で海のうねりがあった。そこで、船を接岸できないと言うことで、海を泳いで南島に上陸することに。けっこううねりがあったので、ドキドキした。けれど、すぐに湾の中に入って奥へと進むので、波に流されるリスクと言うのはほとんどなかった。うなりのリズムを読みながら、岸壁へと泳いだ。こうした経験はちょっとした冒険のようなワクワク感があって楽しい。

送信者 小笠原
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そして、南島を歩いた。太陽の日射しが強く、タオルで体を覆っていた。浜には子ガメの死骸があった。海まで辿り着けずに、浜でその時を迎えたのだろう。甲羅と皮膚だけ残っていた。南島を見終わるとまた、泳いで船に向かう。次はまた違う場所から泳いで船に戻る。大きなうねりの波を避け、落ち着いたところを見計らってみんなでいっせいに泳ぎはじめた。水をかきわけ、かきわけ、船のタラップに足を架ける。さて、今日の海上生活も終わり。17時前に港に戻り、宿へと帰った。いつものように水着とシュノーケルセットを洗う。

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今夜は父島最後の夜。明日の朝に母島へと渡るのだ。最後だし、夕日を見に行こうと思い、宿からあるいて30分程の高台にあるウェザーステーションへ。登っていくと、本当に眺めのいい場所に三日月山展望台が作られていた。人気のスポットらしく、たくさんの人が集まってきていた。良さそうな場所を確保して、音楽を聴きながら、暮れ行く時間を過ごした。陽光が海の上に真っすぐな道を造っていた。その道の先に太陽が沈んでいった。沈む瞬間に緑色に光るグリーンフラッシュを期待したが、今日はお預けだった。母島では毎日グリーンフラッシュを求めて、夕日を眺めようと思った。

送信者 小笠原
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宿へと戻り、夕食。一階の狭い食堂で、おかずとご飯をお盆にのせ、ひとり夕食をとった。網戸の先からは虫の声が聞こえてきた。食べ終わり、今日は盆踊りの練習があると言うことで公園に。父島では毎年の盆踊りが有名で、島民が1年間で最も楽しみにしている行事のようだった。花火もあがるし、最終日にはアンコールがかかるほど。そんなに盛り上がる盆踊りだから練習もある。こりゃすごい。本番の日には母島にいるため、参加できない。そこで、練習だけでもと思い、足を運んだ。小さな子どもから、お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃん、そして毎年夏に小笠原に来ている旅人、みんな真剣に練習をしていた。本当に盆踊りがこの島に根付いている、そして真剣に取り組んでいるんだなーと実感。

送信者 小笠原

練習が終わると、同宿の旅人と飲みに行くことに。最後の日だしと言うことで、4、5人で連れ立った。小笠原では地元の酒を造ろうとラム酒を作っている。試しに飲んでみた。特別な味と言う気もしなかったが、やはり旅先ではその土地の物を飲み食いすると、ああ、来たんだなと実感する。その時は感じなくても、何年かたった後に、同じ匂いを嗅いで旅の出来事を思い出すことが有る。五感の記憶はそうやって蘇り、日々の生活にちょっとした喜びを与えてくれる。

送信者 小笠原

2人は帰り、残った3人で青灯台という浜の近くの公園で続きを。小笠原の空の下で、偶然同い年だった男3人いろいろなことを語った。ああ、旅をこれからもするだろう、そんな風に思いながら夜は更けていった。