日別アーカイブ: 2010/9/17 金曜日

えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛してる

「えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛してる」
小山田咲子

若くして不慮の事故で亡くなった方の本について、どのように書くべきか非常に戸惑う。彼女はアルゼンチンで。同乗していた車が横転事故を起こして亡くなった。24歳だった。

この本を知った経緯やどんな内容の本であるか否かに関わらず、僕はこのタイトルに興味を抱いた。

「えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛してる」

ひと言で言い切ってしまうならば、このタイトルが完璧なのだ。好奇心を持って旅をしたり様々な取り組みをしていた彼女を最も表現している言葉だと思う。若さ故に抱えていた将来への不安や希望がそのまま現れているタイトルだとと思う。僕も何か未知の世界に飛び込むことが好きで、不安を抱えながら興味のある世界へ飛び出す瞬間が好きだ。しかし、もともと臆病な性格であるのと、年を重ねることにまとわりつきはじめた様々なものによって、えいやっ!と飛び出すことが少なくなっている。そんな自分にもどかしさを感じる一方で、大きくえいやっ!と飛び出してやろうと常々思いつづけている。

僕の「えいやっ!」の話しはいいとして、この本を知ってから数年間買わなかった。読みたいなと思っても、なぜだか買わなかった。読まなかった。理由はいくつかあるのだろう。ブログを本にまとめただけである。それなのに1,680円もする。何よりも彼女の不慮の事故死を思うと、手が遠ざかった。

そんな時が2,3年続いた。先週この本がどうしても読みたくなった。1週間前のことなのに根源的なきっかけは覚えていない。そして、新宿などの大型書店にも売っていなかったので、すぐにアマゾンで注文して、すぐに読み終えた。

読み始めると非常に共感する場所もあれば、しっくり来ない部分もあった。文章は読みやすく素敵な表現もあったけれど、あくまでブログ調の文章だった。まあ、当たり前だ。彼女はただブログに書いていただけなのだ。本になるなんて思ってもいないのだから。彼女が亡くなってから、ご両親が出版した。おそらくは自費出版だと思う。そんなことを感じる編集も見受けられた。こんな言い方をすると否定的に聞こえるかもしれないけれど、そんなことは全くない。だからこそこの本の価値が出ているのだから。

不思議な魅力を持っていたんだろう。言ってしまえばただのブログ本。でも、生きた彼女がそのまま、この本にあった。まるで、本の目の前で日常の生活をしているかのように。ブログに書いていた文章なので、なんの偽りもなく日常があるがまま書かれている。友達のブログを読んでいる感じとなんら変わらなかった。タイトルがあり、日付があり、日々の出来事や考えが時系列で記されている。等身大の彼女がいて、日々の出来事が起こる。その出来事はつながりを持って表現されている。そんな日々の生活が続いていた。

そんな時間の流れが突然止まった。世界は止まった。あまりにも突然だったことが伝わってくる。これは小説やドラマなんかでは決して表現できない、突然訪れたピリオド。最後のブログのエントリーから伝わってくる「終わり」のない最後だったということ。

1人の人間が生きている。世界の60億人がこの本の様に1人1人として生きている。そして、生きていると言うことは、死がそこら中に存在していると言うこと。それを見せつけられた。と同時に両親の子どもへの愛を感じた。

インターネットやブログという仕組みが出来たからこそ、こういった本が生まれ、1人の人生が時間と土地を越えて感じられた。彼女が日常で書いていたと言う事実、両親の想いがあって本が出来上がり、僕は本を読み、こうして何かを感じとっている。なんだか、書きたいとぼんやり思っていることとは大きく異なる方向性になった。けれど、とりあえずこの本を読んだ後の感想を書き留めておきたい。

送信者 ドロップ ボックス

気になった場所の引用

「東京に来るまでは知らなかった。私が取り組む景色の外側にも世界のあることを。見るべきもの、行くべき場所が限りなくあることも。
私はなんにも知らなすぎて、それはもう悲しくなるぐらいだけど、ばかになることも真面目に語ることも恐れない人たちを見ていると、勇気が出る。」P16

「年上の人間が年下の人間に、「知らない」という理由だけで自分がちょっとかいま見た世の中の複雑さやつらさを見せようとするのは罪だと思う。「誰もが通る道」という言葉は正しいようで正しくない。それぞれが、そrぞれの道をそれぞれの悩み方で悩みながら歩くしかない。」P66

「ひとりの時間を大切にすることと、ひとりの生活に慣れてしまうことは、全く別の問題だと思う。」P73

「日常の雑事を全てとりあえず収めるべき場所に収めて(あるいはなかったことにして)深夜に荷物をまとめ、えいやっと部屋を飛び出す、あの瞬間をやっぱりどうしても愛していると思う。」P97

「私は物事が変わってゆく速度としてベストなのは「草木の成長するスピード」だと考えてて、結局そのサイクルを無視してリズムを刻む文化も文明も破綻していくような気がする」P143