日別アーカイブ: 2011/9/13 火曜日

サンタクロースは2度来ない

2009年に毎月1回程度通い続けていたのが、クリエイティブライティング講座。

好きな雑誌と聞かれたら「coyote」と答えていた。
残念ながら、今は休刊してしまった雑誌だが、coyoteの編集長であり、switchパブリッシングの社長である新井さんの講座に通っていた。
その講座がクリエイティブライティング。
当時、それぞれの言葉を共有した仲間とは、今でも毎年12月中旬にForget me notというイベントで集う。

それぞれの1年間の近況を話し、5分程度の発表を行う。
大半の人が自身が書いたエッセイや小説の朗読をするが、決まったルールはなく紙芝居、歌、映像なんでも自由だ。
そして個人が書いたエッセイや小説、詩は冊子にしてみんなに配られる。
会の締めくくりとして最後にお互いが持ち寄ったオススメの本の交換会し、懇親会へと進む。

僕は、このクリエイティブライティングに参加して、朗読に耳を傾けるという幸せに出会った。
それまでは、あまり朗読を聞くこともなかったが、毎月30人ほどの朗読を聞いていると、本当に好きな朗読に出会えた。
参加者の中で特に3人の方の朗読に、いつもうっとりとしていたのだ。
その中でも、一瞬の間に朗読の中の世界に誘ってくれるストーリーテラーが一人いた。
僕は、その朗読を聞くために通っているといってもいいぐらい、心地よい時間を作り出してくれていた。
毎年12月に巡り会える年に1度のクリスマスプレゼントのようなもの。

そんなメンバーと焚き火を囲んで朗読をしたいという案から、夏休みにキャンプが企画された。
旅と言葉が好きな人ばかり。
あとは、年齢も職業も性別も何もかもバラバラだけど、どこか共通点がありよい雰囲気でつながっている。

トライアスロンや友達の結婚式、トレランレースともうまく日程がずれてくれて、無事に参加することが出来た。
それが、9月10、11日のクリエイティブライティングキャンンプ。

送信者 クリエイティブライティング

参加者のひとりである成瀬さんが岐阜の恵那に戻り、山小屋をひとり造り暮らしはじめたと言うので、舞台はそこに決まった。
恵那までは各自集合。
俺は実家からも近いので、いったん家に帰り朝ご飯を食べて、再び恵那へ向かった。

11時30分過ぎに恵那駅に着くと、仲間がちらほら集まって来た。
半年ぶりぐらいに会う顔は懐かしく、みんなこの2日間を待ちわびている感じがした。

送信者 クリエイティブライティング

成瀬さんや車で来ている方にピックアップしてもらい、小高い丘ひとつが成瀬さんの家のような物で、敷地内ではお姉さんご夫婦がパン屋&カフェを営み、ご両親もすぐ横の家に住んでいらっしゃった。着いた瞬間に、ここは素敵な場所だなと思った。自然に囲まれ、隣の家とは適度な距離があり、丘の上で見晴らしも良い。

送信者 クリエイティブライティング

高速バスで恵那まで来たり、車で来た人が徐々に集まって来た。皆が集まり気がついた。サンタクロースは2度来ないと。一番朗読を楽しみにしていた方が来ないことを知った。サンタクロースは1年に2度やってくることはない。12月のForget me notで、朗読が聞けるのを楽しみに取っておこう。

さて、クリエイティブキャンプのスタートだ。まずは、各班に別れてアクティビティをする。トレッキング班、Gobar(ゴーバル)さん指導によるソーセージづくり、そして釣りの3班。俺はトレッキングコース。車で20分ほど行った、保古山に。1000メートル弱の山にハイキング。みんなで近況を共有したり、今回来ていないメンバーの話しをしたり、山歩きを楽しんだ。ダムになってい湖の湖畔を歩いて、ゴール。爽やかな汗を流した後は、花白温泉でひとっ風呂。

送信者 クリエイティブライティング

17時にキャンプ会場に戻って、バーベキューやら焚き火やら、テントの準備。ソーセージづくりを教えてくださったGobarさんの方々もご一緒して頂けた。とても、気さくで優しい方ばかりだった。薪を集め、野菜や肉を切り、ビールを冷やし、BBQの炭をおこし、テントを張った。そして、星野道夫さんとも焚き火をして語り合っていた新井さんが直々に焚き火を熾してくれた。とても手際よく、炎が揺らめきはじめた。準備は整った。

送信者 クリエイティブライティング

ここで、成瀬さんの作った小屋のお披露目会。正直な所申し訳ないけれども、もっと小さく精度の低いものかと思っていた。ところが、とても立派で、精度は高くひとりでは大きすぎると思うぐらいのサイズだった。さらに、ロフトもありとてもひとりで作り上げたとは思えないほど。そして、この小屋のストーリーを聞いてさらに魅了された。

送信者 クリエイティブライティング

自然と人の折り合いをつける接点としての家としたかったと言う。それを意識して建てたそうだ。大地を傷つけるわけではなく、コンクリートで埋めた固め自然を人が支配するような建て方ではない。河原で大きな石を広い土台として、木は近くの山で切ったB級品を製材所から分けて頂く。その土地にあった建て方で、人と自然がお互いの許容できる範囲を確かめ合って造った家。そして、大型の工具は出来るだけ使わず、自分ひとりでのこぎり、ノミなどを使い、手で大きな丸木を担いで作り上げた。

送信者 クリエイティブライティング

作っている間に、気づいたことがあればそれに従って家の作りを変更して行った。日の出をみるで窓を付け加えたり、人と自然をつなぐものとして縁側を作ったり、もぐらの巣をみるために低い位置に窓をつけたり、鳥箱をつけるために玄関の前に木を残したりと。 そんな山小屋を彼は身の丈にあった家と表していた。そんな暮らしにとても共感するし、実際に体現しているのが何よりもかっこいいし、憧れる。悔しさと言うか嫉妬の心も生まれるが、俺も自分のやりたい世界を実現しようという気持にさせてくれる。。

送信者 クリエイティブライティング

山小屋の見学を終えると、BBQの開始。たくさんの肉と、たくさんの野菜、たくさんのビール。どれもとびきりおいしいものばかり。さらに憎い演出が空には真ん丸の月。みんなが、思い思いのスタイルで食べ、話し、楽しい時間を過ごした。山の話しを聞いたり、共通の知り合いが見つかり盛り上がったり、本の話しになったり。

送信者 クリエイティブライティング
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お腹も満腹になり、話しもひとしきり終えた所で、朗読タイム。今回は自分の文章ではなく、オススメの本の一節を焚き火を囲んで読むと言うスタイル。焚き火を囲んで座る。朗読の前に、まずはGobarの桝本大地さんが焚き火を囲いながらギターで中島みゆきさんの糸を歌った。うたた寝をした時に柔らかい毛布をそっとかけてもらった様な居心地の良い、心安らぐ歌声で空間は包まれた。みんな、あまりの歌声にうっとりとしいった。僕もあまりにも心地よく、とても暖かな幸せを感じた。

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それから、朗読。トップバッターが俺で少々ビックリしながら、焚き火の前で近況報告。先日の佐渡トライアスロンやパプアニューギニアの祭り旅の話しをした。そして、それらを含めて僕が行動する源泉である好奇心と同じような気持を表現した文章を読んだ。小沢征爾さんの「僕の音楽武者修行」の冒頭だ。

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まったく知らなかったものを知る、見る、ということは、実に妙な感じがするもので、ぼくはそのたびにシリと背中の間の所がゾクゾクしちまう。日本を出てから帰ってくるまで、二年余り、いくつかのゾクゾクに出会った。
 神戸から貨物船に乗って出発、四日目に、ぼくにとって、物心ついてから最初の外国であるフィリピンのエスタンシヤという島が見えだした時 ―
 六十日余りの気の遠くなるほど長い長い船旅のあと、何日ものスクーター旅行でパリにだんだん近づき、やっとパリのセーヌ河のふちにたどり付いた時 ―
 少々空想的に考えていたチロルで、銀雪に輝く山頂にスキーで登って、ギョロリと山々を見まわした時 ―
 また、ヨーロッパから飛行機でボストンに飛び、機上から初めてアメリカ大陸を見た時 ―
 ニューヨーク・フィルの一行と、太平洋の上を飛んで来て日本の土が見えた時 ―
 これらは、いま思い出してもそのゾクゾクの代表的なものだ。
 しかし、まだある。

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それから10人が続いて、休憩を挟みまた10人。最後に新井さんが朗読された。朗読された本の中には、僕も読もうかと悩んだ池澤夏樹さんや角田光代さん、開高健さんの本の一節が読まれた。同じような感覚をもっている人が多いんだなと改めて実感した。話者は満月を背に、焚き火を前に、聴衆は大地に座り 秋風を感じ朗読を聞き惚れていた。最高に心穏やかなあたたかい幸せの時間が流れた。みんなたくさん食べ、たくさん飲んで朗読なんて出来るのだろうかと思ったが、みんなしっかりと朗読し、聞き入っていた。それだけ、みんなが言葉に敏感なのだろう。最後にまた大地さんが美空ひばりさんの「愛燦々」を唄い締めくくった。

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何時になったかも知らぬまま、月の位置がBBQを始めた頃と比べてだいぶ高くなったなーと思い、眠たくもなったので眠ることにした。テントもなしで空を見上げて大地に包まれて寝た。世界は柔らかく、温かく、風がやさしく子守唄を歌い寝かせてくれた。こんな完全な野宿は久しぶりだったかもしれない。

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翌朝も早く目が覚めた。日の光を浴びて。朝の空気の気持よさが違った。もちろん都会の家で目覚めた朝とも、自然の中でもテントの中で目覚めた朝とも違った。昨夜の片付けをして、朝食の準備。パン屋さんが作って頂いた、サラダにパン、卵。パンは焼きたてのうんまいクロワッサン、レーズンやナッツがたくさん入ったパン、そして食パンにコーヒー。もちろんGobarさんのソーセージも。青空の下で、みんなと話しながら、こんなにうまい朝食ってのは幸せだ。食べると言うことは自然の恵みを頂いていることだって、当たり前のことを感じることができる。そして、おもむろにGobarの桝本進さんが取り出したのが、骨付きハム。新井さんもこれはうまいから、切ってほしいと。骨に着いた肉をナイフでスライスして行く。皿に並ぶとみんなの手が次々と伸びて行く。俺も楽しみにして食べると、うまい。なんだこの肉のうまみは。こんなにうまい肉は久しぶりに食べた。最高にうまい。

送信者 クリエイティブライティング
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肉はほとんどナイフで切り落としてしまったけど、まだシャブリ着けば食べれそうなので、食わせて頂いた。骨についた肉がまたうまい。もう、たまらん。なんだか、野生に戻って肉を食べている感じ。みんなからは、オフィスワークよりも似合っているねという半分褒め言葉、半分あきれたという感じで(笑)「だって、うまいんだもん」という小学生並みの発言をしてしまった。

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そして、朝食も終わり、最後の本の交換会。くじ引きで交換する本を決めて、最後の感想を共有する。俺は、山田詠美 さんの「せつない話」第2集をもらった。自分では買わなさそうなジャンルの本だ。だからこそうれしい。どこか共通点がある仲間がお勧めするのだから、好きになる可能性は高い。けれども自分では買わない、そんな本に出会えるとても貴重な機会。読むのがとても楽しみだ。僕は、成瀬さんの家のコンセプトの話しとそれを実現していることへの尊敬、そして自然の中で迎える朝の瑞々しさ清々しさ。最後に、最近は野菜が好きと言っていたけれど、骨付きハムを食べてやっぱり肉が好きだと気づいたことを話した。日々食べている肉は、生き物の味すらしない工場生産の肉のような肉だったのかもしれない。そな時に、この骨付きハムを食べた。特に骨をもってかぶりついた時。その豚の足の骨の太さとしっかりとした重厚感を感じ、それに食らいつく。生き物を頂くことに真正面から向き合っている感じがした。そんな事もあって、頂く動物に対する感謝もこめて肉が好きと言いたくなったのかもしれない。

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本の交換会も終わり、2日間に渡ったクリエイティブキャンプも終わり。最後に、みんな別れを惜しんで立ち話をする。僕も新井さんと何人かで話しをしていた。新井さんが一緒に話していた仲間に対して、「寺町は裏切らないやつだからいいよ。」と話した。その言葉がとても嬉しかった。新井さんは自分が好きな人に話しを聞きたい、だから雑誌を作ると言って、本当に雑誌を作られ好きな人にインタビューをしたり、自分でも表現したいとエッセイを書いて表現されている。そして、もう25年以上もその会社を続けられている。本当に尊敬する生き方をしてる方だ。そんな方に、「寺町は裏切らない」と言って頂くとうれしいと同時に、しっかりとしないといけないと身が引き締まる思いだった。

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最後に記念撮影をして、みんな駅へ向かう人東京へ帰る人と方々に帰って行った。僕らは4人でGobarさんの工場へ。工場を見せて頂くと同時に、惚れ込んだ骨付きハムを買わせて頂いた。小規模ながら、本当に真摯にハムづくりをされているというのが感じられる工場だった。それから、昨日からずっとご一緒し、工場を案内して頂いた桝本進さんのご自宅も見せて頂いた。桝本さんは若い頃に何年もネパールのルンビにに住み水牛を飼って生活していたと言う。それから、流れに流れて恵那の地にきて、ハムを作っていらっしゃる。

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桝本さんの家も丸木で作った立派なログハウス。眺めがよい高台にあり、外にはビザ釜と焚き火スペースがある。みんなで夜な夜な焚き火を囲んで語り合える幸せな空間。部屋の中にも薪ストーブがあり、囲炉裏があり、ハンモックがある。木のぬくもりで落ち着く手作りの空間。

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桝本進むさんは目尻にしわを寄せて、本当に優しくにんまりと笑う。ただ、その笑顔をみているだけで心穏やかになるような仏さまのような笑顔。そんな笑顔で、進さんは話してくれた。「田舎で楽しく生きている、そんなことを実現しているってだけでいいのかなと思うんだ。」「それをみんなに宣伝しなくても、繋がりで人がきて知って体験してくれればよい。家に何日とまってもいいんだよ。ハム屋の仕事はいくらでもあるからね。暇つぶしもあるし。」と。

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なんだか、この家と、笑顔と、この言葉だけで、全てを教えていただいたような気がした。それと、パン屋さん成瀬さんのライフスタイルにもとてもハッとさせられた。本当にいい時間を過ごさせてもらった。coyote がつないだ縁。関わった全ての人、企画してくれた仲間に心の底からありがとうございました。

送信者 クリエイティブライティング

そして今年のクリスマスプレゼント「Forget me not」は12月17日に行われる。

スイッチパブリッシング
http://www.switch-pub.co.jp/

Cultivateur(キュルティヴァトゥール)
http://www.cultivateur.jp/

山のハム工房 ゴーバル
http://gobar.jp/

聞き惚れる声
http://teratown.com/blog/2009/12/11/euiea/


クリエイティブライティング
http://www.teratown.com/blog/2009/11/29/eaceeeiioae/