聞き惚れる声

この1年ほど、朗読を聞く機会に恵まれた。

そのきっかけは、Rainy Day Bookstore & Cafeでの赤坂さんのストーリーテリングだった。深い森の中でアラスカの神話を聞いているような気分になった。こんなにも声が空間をひとつに包み込むものなんだと初めて気づいた。そして、また朗読を聞き続けたのは偶然にも同じ場所だった。

クリエイティブライティングでは、書いた文章をみんなの前に立ち朗読した。30人ほどの出席者が入れ替わり立ち替わりあるテーマについて書いた文章を読み上げる。数時間程さまざまな人の朗読に耳を傾ける。全6回の講座があったから、この半年で180回ほど朗読を聞いたことになる。それぞれ読むスピードも違えば、緊張して声が震えている人もいる、落ち着いて声に強弱をつけて読み上げる人もいる。その人なりの朗読になり、全てが魅力的にうつった。読み上げられている内容と朗読の仕方が非常に上手く合わさり、それらの組み合わせでしか生まれない表現となっていた。ちなみに、僕は参加者の一人に「少年みたいな朗読をするね」と言われ、自分でもその感想に頷いた。

参加者の中には図書館で子供に絵本の読み聞かせをしている人、プロのストーリーテラーかと思うほどの人、淡々と読み進める人、感極まって声が震えている人。そんな中でも特に好きな人が3人ほどいて、その人たちの朗読が始まると瞬く間に文章の世界に吸い込まれて行った。文章の内容よりも前に、その声だけで聞き惚れていた。声に聞き惚れただけでなく、そんな朗読をする人は例外なく素敵な文章だった。

朗読し始めた瞬間に空間を包み込むような、全ての視点を奪うような声。その声はつぶやくような柔らかさを持ちつつ、しっかりとしていた。声と声の間に潜むものや声の背景にある世界も伝わってきそうで、想像が膨ら朗読だった。朗読の素晴らしさは、読書では味わえない程に想像が膨らむことにあるのだろう。そして、その想像は場を文章の中の世界にする力を持っている気がする。

これが僕に取っては非常に希有な経験だった。声に自然と集中し、目を閉じて聞く。心地よいとても暖かく幸せな時間に浸っていた。そんな暖かな幸せは、今まで旅の中でしか出会ったことがなかった。そんな気持を初めて東京の建物の中で味わった。またひとつ幸せな時間が増えた気がした。

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