「持っていく本が決まれば、出かける準備は終わったようなものだ。」
彼は旅先でしか小説を書かなかった。そんな彼は小説を書きに出かける相棒として、いつも本棚から適当に一冊の本を抱えて出かけた。ただ、その日の気分にあった1冊を選び出すことが、一番悩ましいことだった。この他に持っていくものと言えば、万年筆と手帳そして葉巻だった。これは、僕の好きなキューバ出身の作家の日常だ。
という話しが本当にあってもおかしくないと思うのだが、そんな話しは聞いたことがない。
僕はと言えば、出かける準備はかなり素早い方だと思う。日常なんてほぼ手ぶらだから、荷物の準備はないようなもんだ。さらに旅に出かける時や山に行く時は、だいたい持ち物が決まっているし、持ち物リストがあるので準備は早い。
ただ、女性が着ていく服で悩むのと同じように、僕は持っていく本でひたすら悩む。女性は服を一回着て、鏡を見て、また脱いで、また着てを繰り返すのだろう。毎日がファッションショーのようだ。
僕は本を手に取ってパラパラ読み、また新たな本を手に取ってを繰り返す。暇な時に訪れた本屋での出来事のようだ。
もちろん、今日はこの本だ!と、一発で決まる時もあれば、何度も何度も取り替える時もあるのだが、特に1人で出かける時は、本を選ぶのに最も時間がかかる。どんな思いで出かけるのか、出先でどんな出会いがあり、どんな気持になって、どんな本が読みたくなるのか。もちろん、出かけるタイミングでどんな本を読みたいのか。そんなことを考えながら、ベストな本を選び出す。
持ち物なんて、ルーチンワークで準備できるけれど、どの本を読みたいかは自分自身しか分からない。気持にピッタリと合った本が決まれば、気持よく玄関を飛び出すことが出来る。
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アラスカを一緒に旅した本
僕を北極圏へ導いた一冊の本