アラスカ物語6 犬ぞりで出かけよう

前回までのアラスカ旅日記はこちら「少しずつアラスカを感じ始めた日々」

昨夜話していた中国のJOYがアラスカ鉄道でアンカレッジに戻るらしく、早朝に見送った。そしてロッジには誰もいなくなった。キースじいさんは釣りに行き、ベルマはフェアバンクスの町まで、ジョージはどこかへ。

昨晩のうちに誰もいなくなる事を聞いていたので、明日は犬ぞりでどこかに行きたいと伝えてあった。そうしたらキースおじさんの知り合いの「ドッグマーシャー(犬ぞり使い)の女性が迎えにくるから」と言われていた。13時と聞いていたので、昼食をとってしばし待つ。先日スノーマシーンをしたときのように寒いだろうと思って、完璧な防寒対策をしてドッグマーッシャーを待つ。

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13時過ぎに真新しい4WDに乗って一人のおばちゃんがロッジにやってきた。彼女の名はパット。キースおじさんの友達で、このロッジの近くでドッグマーシャー(犬ぞり使い)をしていると言う。まずは、車に乗せてもらい彼女の家兼犬ぞりベースへ。車を20分程走らせ、道路をそれて林の中へ入っていく。こんな道を行くには4WDじゃないと無理だなーと思いながら、いったいどんなところに住んでいるんだろうと思う。しばらく行くと、ポツンとログハウスが建っていた。自然を味わうには最高に素晴らしい場所だ。車の音は聞こえないし、近くに人が来る事もない。

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家の前で手にエサを持って待っていると、鳥が飛んできた。そんな場所だ。パットはあえてここに住んでいるのだろう。パットの娘さんもクリスマスと言うことで帰郷していた。彼女の住んでいるところも南西アラスカの75人の村だと言う。それも飛行機でしか行けない場所の。パットの家はもちろん水道は通ってない。そんな不便はあるけれど、それ以上にこの自然に包まれた環境が好きなんだろう。ソファーに座って話していると、家の前をよくムースが歩いていくよと話していた。

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パットや彼女の娘さんが住んでいる場所を思うと、アラスカにおいて過疎化は起こらないんじゃないかと思えてきた。日本で何十人という規模の集落になると高齢化が進み村の人だけでは生活が出来なくなり集落を出て行かざるを得ない。例えばトカラ列島の臥蛇島も若い人材がいなくなって無人島になったと聞いた事があるし、限界集落と言われる場所が非常に増えている事からも今後集落は消えていくのだろう。さらに、日本では数十人や数人になっても村で生活し続ける人のことを変わり者だとか偏屈者と見る事がある気がする。ましてや、パットの様に一軒だけ家があってそこに住むとなると、あの人は変な人だとレッテルを貼られかねない。ただ、このアラスカと言う場所ではそんなことはなさそうだった。ひっそりと暮らす事が好きだから人里離れたところで暮らしている、犬を育てるには自然の中がいいから、生まれた村だからずっとここに住む、それぞれの理由を持ってそれぞれの場所で暮らしていた。ただ、アラスカでもネイティブの村では過疎化が進んでいる地域もあるようだった。

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そんなパットのログハウスで話しをしてから外へ出た。そこでは20頭近くの犬が飼われていた。僕を見るとよそ者が来たと言った感じでいっせいに吠えだした。僕は犬や猫が嫌いで人生でさわった事すらない。怖いし、生理的に受け付けないのだ。四半世紀以上も生きてきて犬に触れた事がないし、嫌いでありつづけた。それなのにも関わらず、この犬ぞり用の犬達にはそんな感情を抱かなかった。正直言えば、少しだけ怖さはあった。しかし、その怖さを越えて犬と向かい合えた。彼らが僕を乗せて走ってくれるんだ。だから彼らに敬意とサポートをしなければならないと、無意識のうちに思ったのだろう。

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今日の犬のコンディションやリーダーシップの有無、そして走る場所などを考慮して5頭が選ばれた。それぞれの犬の体にハーネスをつけ、犬ぞりにくくりつけた。犬の頭からハーネスを通し、片足ずつ抱えてハーネスをつけていく。今までの自分からは想像もつかないけれど、一頭一頭ハーネスをつけていった。すると、犬によって反応が違って、彼らもそれぞれの特徴があるんだなーとしみじみと実感した。

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パットが操縦して僕はソリに腰掛けた。すると、犬は前に走り出そうとしている。それを必死でパットが止めていた。本能的に犬は前に走り出そうとしていたのだ。”Go”と言った瞬間にパットはビッグブレーキを外し、犬ぞりは走り始めた。低い位置を滑るように走る犬ぞりは、面白い視点だった。林の中を縫うように駆け抜けると雪原に出た。スノーマシーンよりも適度なスピードであるため、寒さも厳しすぎる事は無い。やはり動力よりも動物や自然の力が俺には合っている。そんな風に犬ぞりを楽しんだ。雪で覆われた山や雪原、月を眺めながら犬ぞりは駆けた。

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その後、犬ぞりの操縦の仕方を簡単に習った。両足で止めるビッグブレーキ、片足のブレーキ、右折と左折。自分で操縦できるか不安だったが、トレース(踏み後、小さな道)がある場所の操縦であったため、なんとか走る事は出来た。犬が我武者らに前に進もうとする力を調節しながら、右に行ったり左に行ったり。犬の気持を少しでも理解しないとちゃんと進めない事を身をもって感じた。さらに、こんな雪だけの世界を導いてくれる犬のパワーに感謝した。

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そんな風に犬ぞりで遊び終えて、植村直己さんのことを思った。彼は犬ぞりで北極圏1万2千キロを単独横断している。その時に書かれた本を読むと犬を本当に愛して大切にし、まるで盟友のようになっていた。自分でもほんの少しだけ犬ぞりを体験してみて、植村さんの気持が今までよりも深く感じれた気がした。そして、犬ぞりで1万2千キロを走破したとんでもなさを改めて感じた。

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いい時間になり、ロッジに戻り夕食。何人かの人が来ていたので一緒に食事をとった。そして、いつものようにオーロラをゆったりと眺めた。実は5泊目、最後の夜だった。そんな夜もオーロラを見て、ジョージと語り合った。こんな日常の様な非日常がずっと続く気がしたけど、最後なんだと思いながらウォッカを飲んだ。

アラスカ旅日記の続きはコチラ「ラスカ物語6 星野道夫に会いにいく」

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