日別アーカイブ: 2010/2/22 月曜日

アラスカ物語8 北極圏へ。

これまでの旅日記はコチラ「アラスカ物語7 星野道夫に会いにいく」

僕は2段ベッドの上に寝て、おっちゃんは下で寝ていた。おっちゃんはフェアバンクスに旅行できていたおっちゃんだ。それは宿のドミトリーに泊まっているのだから間違いない。なんだけれど、このおっちゃんは空港まで車で送ってくれる。これだけ聞くと不思議だけれど、旅をしていればこんなこともある。おっちゃんは車でフェアバンクスに来てこの宿に年末年始長期滞在しているのだ。まだ外が真っ暗な時間に起きて、出発の準備をする。おっちゃんも起きてくれて車のエンジンをつけてエンジンが温まるのを待っている。なんていうと、とんでもなく朝早く感じるが、8時過ぎに起きた。日照時間が3時間ぐらいだから、真っ暗なだけだ。

送信者 ALASKA 2009

8時30分ぐらいに宿を後にした。フェアバンクス空港に到着したけれど、目的のノーザンスカイのカウンターが無い。そこでアラスカ航空の職員に聞くとセスナはフェアバンクス空港の横にあるイーストランプという場所から離発着するらしい。ということで、イーストランプまで送って頂く。無事にオフィスを見つけ、おっちゃんに10ドルのチップを渡して別れた。オフィスでは体重と荷物の重さを測った。セスナのバランスをとるために、機体左右の重さを調整するためだ。しばらくして、セスナに搭乗。僕は助手席に乗せてもらって、もう一人のアメリカ人のおばちゃんは後部に座った。パイロットと3人で、コールドフットという北極圏の村を目指す。

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エンジンをかけ、プロペラが徐々に回りだす。どんどん回転は速くなり、座席を通じて振動が伝わってくる。セスナに乗るのは今回で3回目。過去にはペルーのナスカとスカイダイビングの時に乗った。久しぶりだからワクワクしてくる。パイロットは計器のボタンを押し、モニターを見ながら出発のタイミングをうかがっている。滑走路に機体がセットされると、一気にスピードを上げて前に進んだ。周りの景色がどんどん後退していった。すぐに機体はすっと空中に浮かんだ。セスナは機体が軽いから離陸もすんなりといくようだ。

送信者 ALASKA 2009

まだ、闇に包まれたフェアバンクスの夜景を眺めながらどんどん上昇して行った。気持いいなーと思う。大型旅客機と比べたら圧倒的に自由に空を飛べる。空との距離がぐっと近づいている感じがして、とても興奮した。先を眺めていると、月が輝いていた。そしてその反対の空は朝焼けで染められ始めていた。こんなに身近で朝と夜の境を感じられたのは生まれて初めてだった。地球は回っている。そして、夜が終わり、朝が来る。それを身をもって感じとれた瞬間だった。さらに、アラスカの大きな大きな大地を眼下に眺めた。蛇行する川は凍てつき、山は雪でまっ白に覆われていた。アラスカって、本当にでかいなーと思いながら乗っていると、飛行機が旋回し始めた。到着するのだ。1時間程度のフライトで目的地に到着。大きく旋回し、雪の滑走路に降り立った。

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ここはもう北極圏。北緯66度33分39秒よりも北の地域を言う。英語でいえばArctic Circleだ。なぜこの線よりも北を北極圏と言うかと言えば、1日だけ太陽が沈まない(白夜)の日があるのがこの線上なのだ。この線より北は白夜の日が存在する、というのが北極圏の意味だ。そんな北極圏に到着した。とは言っても、北極圏だから何かが起こる訳でも、生活がいきなり変わる訳ではない。とりあえず、飛行場からコールドフットの人が住む場所へ車で向かった。とは言っても、5分程度の場所だ。カフェというのか食堂というのが正しいのか、といった場所に案内された。そして、ホテルの鍵をもらった。そして荷物を置いて、食堂に戻る。

送信者 ALASKA 2009

この村は何かがおかしい。圧倒的におかしい。村というのも不適切。なぜなら、建物は向かい合って2つしか無いのだ。1つは食堂。1つは宿。それもプレハブ小屋をいくつもくっつけた家なのだ。何も無かった場所に、空からプレハブ小屋を2つ落として村ってことにしましたよ。そんな感じの違和感たっぷりの村。だから、人が住んでいる感じが全くしない、まるで月の上なのかと思うような場所だ。さらに月の上と思わせるのは、雪で全てが覆われて白一色の世界だからだ。人間が住むということは、その土地にある木や土を用いて作った家に暮らすということなんだと強く思った。その大地と密接な関係に無い生活は根本的におかしい。そんな事を考えた。

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で、この村に住むおっちゃんに聞いてみた。なぜこんなにも人工的な村なのか?と。すると、アラスカの北極海に面するプルドーベイ油田が発見されて、この油を運ぶための道を作る事になったそうだ。そして、プルドーベイからフェアバンクスの間にトラックの運転手用の休憩場所が必要となった。そこで、作ったのがこのコールドフットという村ということだった。そうか、最近になって作り上げた村だから、こんなにも人工的な村なのかと腹に落ちた。さらにプルドーベイの油田の油を運ぶためにアラスカを縦断するパイプラインも敷かれたそうだ。植村直己さんが北極圏1万2千キロを走破したときもプルドーベイはとんでもなく大きな機械がうごめいていたという話しを本で読んだ事があった。この話しと繋がって、納得がいった。

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さてと、明るいうちにふらふらと散歩でもしようと思い外へ。寒い。激しく寒い。足や手の先からジンジンくる寒さだ。フェアバンクスよりも北にあるので、さらに寒いのだろう。眺めが良いところに行こうと思い、滑走路に向かう。すると、寒さも忘れさせてくれるような光景があった。淡いピンク色に染め上げられた空に輝く月が出ていた。なんて表現していいか分からないけど、周りには誰もいない世界。ずっと憧れてやっと来たアラスカ。雪で一面まっ白な世界。そこに美しいピンクの空と輝く月。こんな事が合わさって、感情が抑えられないほど高ぶった。

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アラスカで写真を撮っている松本紀生さんの言葉を借りるならば、こんな感じだ。

氷河の上におろしてもらって驚いた。
目の前に、まるでピラミッドのようにマッキンリーがそびえ立っているんだ。
「度肝を抜かれた」というのは、まさにこのこと。
それまで見たどんな景色よりも美しく、
壮大で威厳があった。喜びのあまり、
「ウワーーーーー!」と思い切り叫んだのを覚えている。
うれしかったなあ。

オーロラの向こうに 松本紀生

雪の上に寝転がりながら眺めたり、写真を何枚も何枚も撮ったり、「ウワーーーーー!」と思い切り叫んだりした。月は山際に近づいてゆき一度地平線に沈んだ。興奮冷めやらぬまま、プルドーベイから敷かれているパイプラインを見て、食堂に戻った。人工的な村で分厚いステーキというtheアメリカな夕食を頂く。なんだかんだ言いつつ、美味しくて満たされた。そしてアメリカ最北のビール会社で作られたビールも1本飲んだ。

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外に出ると月は地平線に一度沈んで、再びすぐに昇ってきていた。これも北極圏ならではの現象。一瞬、さっき月が沈んだはずなのに、もう昇ってくるってなぜだ?と混乱したが、考えてみれば当たり前だ。部屋に戻って「おくりびと」と「アラスカ物語」を読む。今夜はアラスカ物語を読んで行ってみたかったワイズマンという村にジャックと言う男を尋ねる。ジャックは自然に根ざした生活を今でもして、猟師としての腕も抜群だと言う。

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夜になって、コールドフットから1時間程のワイズマンに車で向かった。この村のおじちゃんに送ってもらった。ワイズマン村に着くとひっそりとしていた。灯りはほぼなく、真っ暗な雪道を進んで行く。コールドフットとは全く違って木で作られたログハウスばかりだ。そんな家を見て、ああ、人が住んでいる場所に来たと実感した。ジャックの家は村の奥にあった。平屋のログハウスの屋根には雪がどっしりと積もっていた。2重の扉を開けて中に入ると、2つの電球が灯された部屋にジャックはいた。

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送信者 ALASKA 2009

ジャックは狩猟の話し、オーロラの話し、幼い頃にワイズマンに移り住んでからの生活の話しなどをしてくれた。今はインターネットも出来るらしく、多少生活は変わったらしいが、根本的な生活スタイルは変わっていないと言う。彼は家の前にトナカイの角を幾重にも重ねて飾るほど狩猟の腕には自信を持っていて、その話しをする時が一番楽しそうに写った。ジャックが獲ってなめしたキツネやオオカミの毛皮を見せてくれた。同じ質の毛を持つ動物でもなめし方の上手下手で毛皮のレベルが全く異なるらしい。実際にさわらせてもらったけど、質感が全然違った。そして、彼は最高の毛皮を自分のジャケットのフードにつけていた。息が凍っても、氷が毛皮には付かないのでいいんだよ、と自慢げに話していた。

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オーロラが見えるかもと、ジャックの家の裏にある雪原に連れて行ってくれた。誰も歩いていない雪原のようで、足が雪の中にズボッズボッと埋もれた。夜のはずなのに、明るい。満月に近い灯りが、まっ白な雪に反射して昼間のように明るいのだ。アラスカの冬は日照時間が少なく暗い時間が多いので、余計に明るく感じた。雪の大地に寝転がりながら星空を眺めたり、風の音や動物の鳴き声に耳を傾けた。そんな自然の時間を味わいながら、アラスカ北極圏に来た事をしみじみと感じていた。

すでに夜中の3時近くになっていたので、ワイズマンを後にコールドフットに戻る事にした。この日、オーロラは見れなかったけれど、とても思い出に残る一日になった。

アラスカ旅日記の続きはコチラ「アラスカ物語9 ブルームーンを北極圏で、そんな2010年の始まり」