日別アーカイブ: 2010/1/25 月曜日

アラスカ物語3 オーロラを見上げた夜

前回のアラスカ旅日記はこちら「アラスカ物語2 アラスカに来て一番最初に訪れた場所。それは・・・」

朝起きるとベルマおばちゃんに、「昨日の夜はオーロラが見れたらしいけど、見た?」と聞かれた。それを聞いた瞬間、しまったと思った。「見てないです、寝てました」と苦虫をつぶしたような表情で答えた。言うならば目の前にある獲物を逃してしまったチーターの様な、最後の一人にヒットを打たれノーヒットノーランを逃したような気持ち。目の前にあるにも関わらず逃した悔しさ。しまった。やってしまった。すぐそこにあるのに、見れなかった。何と言うことだ。

そして、何時頃どの方角で見れたのかをベルマおばちゃんに聞いたが、いつものことだから外に出てもいないらしい。聞いた話しでよく分からないと言う。なんてこった。今夜は絶対に見逃せない。そう心の中で誓った。

送信者 ドロップ ボックス

淡く広い空

昼は家の中にいてもやることがないので、スノーマシーン(スノーモービル)で近くの森を駆け巡ることにした。ベルマおばちゃんの息子で40歳ぐらいのジョージと外に出る。このジョージはいつも冗談ばかり言っている陽気な兄ちゃんだ。スノーマシーンのガソリンを入れてエンジンを駆けて、さあ出発。と思ったら、ガソリンを間違えたと言ってガソリンを抜き始めた。今日はいつもより寒いから、もうひとつのガソリンの方がいいとのこと。気温によってガソリンを代えるのかと思いながら、しばし待つ。

送信者 ドロップ ボックス

スノーマシーン

やっと準備が整った。とても寒いというので上半身はTシャツ、長袖シャツ、フリース、インナーダウン、アウターダウン。下半身はタイツ、薄手のズボン、ズボン、雨具ズボン、ウィンドブレーカーのズボンとありったけの服を着込んだ。やっと出発。ロッジの近くの森をグルグルと回る。もちろん標識もないし、まっ白な森の世界に縦横無尽に細い道があるので自分が何処にいるかなんて分かりっこ無い。そんなところを走る。人の気配は全くない場所だ。ただ、雪に包まれた木々があるのみ。

動物の足あとを見つけては、近くに動物がいないかを探す。そして、木々の切れ間から夕暮れの空を眺める。そんな心が研ぎ澄まされる時間を過ごす。突然ジョージが止まり、小声で何かを話しかけた。彼の指差す方を見ると、大きなムースが木々の間に寝ていた。その大きな角にはわずかに白い雪が積もっていた。おお、ムースだ。700キロぐらいあるというから、その大きさが想像できるだろう。目の前に現れたムースを見ていると、自然の中で人が生きていることに改めて気づく。写真を撮ろうと思ったら、ムースが人間の存在に気づきムクッと動いたので、我々は逃げた。ムースはかわいいとばかりは言っていられないほど危険な動物なのだ。

送信者 ドロップ ボックス

夕焼け空

だが、30分も乗っていると手と足が千切れそうになるぐらい冷たい。靴下は3枚はいているし、手袋も2重なのに。慣れてくるとジョージが飛ばす。飛ばす。風を切って飛ばす。凸凹の雪もあるのでスノーマシーンが飛び跳ねたりする。寒いのとおっかないのと、ドキドキだ。動力の着いた乗り物は精神的に苦手だ。スノーマシーンの前の部分にはスキー板が2つ、後ろはキャタピラが着いている。この後ろに着いているキャタピラが回転することによって進む仕組みなのだが、キャタピラに足が巻き込まれたらと思うと怖い。後日、犬ぞりにも乗った。実は犬も苦手なのだが、スノーマシーンと比べると圧倒的に犬ぞりの方が心が落ち着いて乗ることが出来た。やっぱり自然の力の方が穏やかな気持でいられる。

楽しくもあり怖くもあったスノーマシーンで遊び終えると「今夜はオーロラが見えるかもしれないよ。」とジョージが言った。空に雲ひとつない天気だと見える可能性が高いと言う。その言葉に期待を抱きながら夜を待った。夕食をとり、日記を書き、本を読んだ。そして夜中に備えて仮眠をとった。

送信者 ALASKA 2009

星空

22時ぐらいから30分おきに外へ出て夜空を眺める。オーロラは出ていないかなと、夜空をぐるっと360度見上げる。無数の星は散らばっているけれど、オーロラらしきものは見当たらない。12時ぐらいまで、そんなことを繰り返した。でも、オーロラを見逃したくないという気持がおさまらず、服を着込んで外で待つことにした。夜空の写真を撮りながら、カメラの寒さ対策、ピントの調整、シャッター速度の感覚を掴んだりとオーロラがいつ現れてもいいように準備をしていた。

その時は、ひっそりとやってきた。西の空を見ているとうっすらと緑色の帯がある気がした。はたしてオーロラなのだろうか。薄く白い雲のようにも思える。分からない。カメラで撮影するとオーロラならば緑色に写ると聞いていた。そこで、オーロラと思われる方向を向けて撮影。するとカメラの液晶に写った色はまぎれもなく鮮やかな緑だった。あれは、オーロラなんだ。そんなことを思っていると、徐々にオーロラは大きくなり色が濃くなってきた。あ、これだ。オーロラだ。ついにオーロラが出た。極寒のアラスカで一人、オーロラを見て胸の奥底から沸き上がってくる喜びを爆発させた。オーッと思わずうなり声が出た。

送信者 ALASKA 2009

薄らとしたオーロラ

確かにきれいだ。きれいだ。けれど、それよりも不思議だ。ミステリアスだ。夜空に緑色の帯が舞う。レースのカーテンがそよ風に揺れるように、薄緑色のオーロラがゆらめく。オーロラは常に形を変え、何かに操られているようだった。まるで操られながら生きているようだった。そして、大いなるものが宇宙からのメッセージをオーロラを通して伝えているかのように、オーロラは我々に何かを問いかけているような気がした。

送信者 ALASKA 2009

オーロラ

そんな強弱を繰り返すオーロラを一人で眺めていると、ジョージが出てきた。ジョージは見慣れたもんだといった感じで、カメラを取り出して写真を撮影し始めた。彼も写真が趣味のようだった。オーロラが消えるとジョージと会話を楽しんだ。また30分ぐらいするとオーロラが出るかもしれないよと言い残して、彼はロッジの中へ戻っていった。僕は、この興奮を抑えることが出来ず、夜空を見上げつづけていた。しばらく、するとまた薄らと夜空に緑色のカーテンが現れた。これはオーロラだ。1度オーロラの出現を見て感覚を掴んだのか、2度目はすぐにオーロラと分かった。

送信者 ドロップ ボックス

オーロラを眺めていると、時間が過ぎるのを忘れてしまう。もっと正確に言えば時間という概念が存在していることを忘れ去ってしまう。さらに寒いことにも気づかない。おそらくマイナス30度か40度で寒すぎるはずなのだがそれすら気にならない。それほどまでに、オーロラは何かを感じさせてくれる。そんな不思議な存在だった。明け方の4時ぐらいになり、眠りにつくことにした。

アラスカ旅日記の続きはこちら「アラスカ物語4 日が昇らないアラスカX’masの朝」