月別アーカイブ: 2009年12月

インパラの朝、そして1年の時がたち

11月14日、本屋に立ち寄ると平積みされていたある本に目がいった。数多ある本の中で、なぜこの本に目が吸い寄せられたかと言えば、まず「インパラの朝」というタイトルだ。数年前からインパラという動物に惹かれるものがある。あの軽やかな身のこなし方に惚れている。そして、このタイトルと表装から直感的に旅の本だと感じた。もっとも、帯に写っていた女性がきれいだったということも理由としてあるだろう。こんな理由から手に取った本が、開高健賞受賞作品だったのだ。さらに、11月13日に発売したばかりだと言うことで買うことにしたのだ。

昨年の開高健賞は石川直樹さんの「最後の冒険家」で神田道夫さんのことが書かれた本だ。ちょうど1年前の11月3連休に栃木へ、気球を見に行く際に読んだ。開高健さんも開高健賞を受賞した本も興味深いものが多く、いくつか読んだことがある。そして今年は11月3連休で沖縄に行く時にインパラの朝を読んだ。

一人の日本人女性が2年近く世界を旅した体験を書いたノンフィクション作品だ。まず数十ページ読み進めると、正直あまり面白いと思えなかった。一人で長い間いろんな国を旅をしていれば起こる出来事が、たいそうなことのように書かれている気がしたからだ。旅をする人なら誰でも味わうような出来事を、自分だけが味わったり考えたという感じがして嫌気がさしたのだ。ついでに彼女が旅をし始めた頃の考え方も僕には馴染まなかった。さらに、そう思わせたのは開高健賞審査員の帯コメントが追い打ちを駆けていた気もする。「海外旅行の浸透は ここまで深い世界観をもった 日本人女性を生み出した」などと。

続きを読み進めると、冷静に考えれば女性と男性では明らかに違うはずだということに気づいた。それは、女性の方が海外一人旅のリスクは高いだろうし、それだけ不安な気持も大きいはずなのだ。俺はいつの間にかこの女性をライバルのように感じ、俺だってそれぐらいの経験をしたことある。と嫉妬したのだろう。こんな旅が出来ていいなと、心の底でうらやましがっていたから生まれた感想だったのかもしれない。

そんなことに気づき、肩肘張らずに心を開いて続きを読み始めることができた。さらに、後半になるにつれて日本より経済的には発展していない国の人々に対する考え方が、変わってきたことに共感を覚えていった。旅の前半の彼女の考え方には賛同しかねたが、後半になるに従いその考えは僕の考えていることと非常に近くなった。ただ最後にいたっても、帯のコメントにあったような深い世界観までがあるとは感じられなかったのだが。

ただ、そんなことはこの本の価値を定義しない。この本の最大の良さは、あまりにも素直に心境の変化を綴っていることだろう。出来事もウソ偽りなく書かれているし、心境が変化して行く様も旅の前半と後半での自己矛盾を抱えつつも、自分の中で起こる考えの変遷を正直に書いている。自分自身のかっこ悪い感情も、行動も、矛盾も、醜さも引き受けた上で旅をした潔さのすごさ。そして、それを的確に表現できる文章表現だ。

本の構成とかを考えると、この部分は明らかに異質で無理に追加されている感じがする章もあったが、それは彼女がどうしても書き残したかった強い気持のこもった部分なんだろう。それも含めて読んでいて清々しい気持になった。

そして、人間にとって人生のいつかのタイミングでは「旅」というものが、大きな役割を果たすんだということをつくづくと感じた。

インパラの朝 中村安希 集英社

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流れ着いた島にさいなら

前回までの旅日記はコチラ「下甑島探検隊。出動!」

島に渡る前の段階で甑島に関して知っていたことは、トシドンという年末の祭りと長目の浜。トシドンは南西諸島の仮面神の祭りを調べている際に知った。一方で長目の浜は飛行機の機内誌で紹介されていたのがきっかけだった。

さて、今日は里の集落を自転車で回るということしか決まっていない。長目の浜に行くことは決めていたが、昨夜夕食を食べながらチャリダーの話しを聞いたら、相当急な坂道らしく普通の自転車だったら辛いよと聞いていた。でも、とりあえず行ってみよ。だいたいいつもこんな感じ。

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島の集落

観光案内所で自転車を借りる。素敵なことに無料。自転車に乗って武家屋敷跡の道を進む。ふむふむ、下甑島の手打集落と似ているなと思いながら、亀城跡へ。これで集落の中はほぼ見て回ったことになるほどの島。さて、長目の浜へ行くとするか。道が分からなかったので、おっちゃんに聞いて、さあ出発。集落を抜けタダひたすら自転車をこぐ。透き通る海を眺めながら、びゅーん。噂通りの坂道。ただただ長い坂道を、血相を変えて登って行く。ぐぐっ。スピードは遅くなり、ついにペダルがこげなくなり、地に足がついた。さあ、押して登るか。登りきったところで、細く長い池が目に入った。長目の浜は入江がせき止められて池となったらしい。海に接して細長く池が出来るなんて珍しい。

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長目の浜

さて、またアップダウンを繰り返し集落まで戻る。腹が減ったので、飯を食べる。昼から何処へ行こうと考えても選択肢はたいしてない。市の裏海水浴場へ行ってみることに。こちらも坂道だ。かなり太腿のトレーニングになったかな。海水浴場といっても人は1組しかいなかった。それも泳いでいる訳ではなく、浜にいるだけ。せっかくここまで来たから、海へ入ろう。服を脱ぎ海へ入ったが、冷たい。うう。厳しい。さらに、海の中がサンゴや魚で溢れているという訳でもないので、今日は辞めにしておこう。

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それから、また集落へ得る。やっぱり里の集落で一番好きなのは宿の裏にある浜だ。ということで、またここでぼーとすることに。本当にゆったりできて、物思いに耽るには最高な場所だ。夕日を眺め、近所のおじいさんと孫が海で遊ぶ姿を眺めていた。暗くなり、宿に戻って食事。元気なおかみさんと話しながら、食べていたらご夫婦がやってきた。この年配のご夫婦と話しながら食事。元気なおじちゃんと楽しく話した。奥さんの母親か誰かが甑島出身らしく来たのだとか。どうやら京都でそこそこ大きい会社を経営しているらしく、セルシオに乗った豪快なおっちゃんだった。おっちゃんに気に入られ、高そうな日本酒を頂きながら盛り上がった。

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浜辺にて

翌朝、ついに甑島を離れる。フェリーに乗り込み串木野を目指す。シルバーウィークの最終日ということで島に帰省していた人が帰るタイミングと重なり、見送りの人で溢れかえっていた。一人一人の別れの時を横目で見ると、それぞれの背景があることがしみじみと感じられじーんと胸にしみた。

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島を離れる

フェリーに乗るといつもデッキに出て、海を眺めているのだが今回も海を眺めていた。大きなフェリーで海を眺めていることが本当に好きで落ち着く。何処までも続く海を眺めていると、この地球の有り様をそのまま感じられる気がする。串木野から鹿児島へ移動。帰りは電車で帰ったらすぐ着いた。そして桜島に行くことに。3年ぐらい前にも桜島には行ったが、車で回っただけだったので今回は自転車で回ることに。桜島へ渡る船はなんと24時間運行。驚きだ。さらに150円。電車の初乗り並みだ。

島について自転車を借りて、島を巡る。ちょうどこの日は噴火をしていて、噴煙がのぼっていた。やっぱりこの島は砂っぽかった。そんな島を回り終え、市内へ。夜はゴールデンウィークにトカラ列島の子宝島で出会った親子と再会。屋久島に旅に出かけていて帰りのタイミングがちょうどあったのだ。一緒に夕食を食べながら、旅の話しを楽しくした。こうして再会できる旅仲間がいることは幸せな存在だ。さて、今回の旅も終わり。ゆっくり寝て、明日の始発の飛行機で東京へ。

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