日別アーカイブ: 2010/12/14 火曜日

Forget me not 2010

年末の行事といえば、「Forget me not」。
1年に一度のとても幸せな時間。
この「Forget me not」は、クリエイティブライティングというCoyoteの新井さんが講師をされた講座の参加者が集まって、発表する会。

朗読、映像、写真、紙芝居、近況を口頭で話すなどなど。
さまざまな方法で、一人5分ほどで発表する。
この発表の前に1枚の写真を見せながら2分間の近況報告をする。

年齢、性別、仕事、趣味、考え方など多様な人が集まっており、とても面白い。
今年は33人ほどの発表が行われた。
さまざまなストーリーの朗読を目を閉じて聞いているのが、非常に幸せだ。

僕はUTAFの説明会で遅れたので、20人ほどしか聞けなかったのがとても残念だった。

僕は32番目の発表だった。
小笠原で撮影したイルカの写真をスライドに映した。

送信者 小笠原

僕の前、31番目の発表をした仲間は先日のアイランダーで偶然会った友達だった。
そして、小笠原の写真をプロジェクターで写して近況を話した。
これらの写真や発表原稿などは1週間前に提出をしていたから、驚いた。
なんだか偶然が繋がった気がした。

まだ驚く偶然があった。
一人一冊の本を持って、参加者全員で交換した。
交換相手は33人がランダムで決まった。
僕は村上春樹さんの「走ることについて語るときに僕の語ること」を持って行った。
驚いたことに、もう一人この本を持って来た仲間がいた。
10月ぐらいに東京駅でばったり会った友達で、かつ昨年のクリエイティブライティング講座の際にインタビューをし合って文章を書く課題でペアだった相手。
インタビューのペアは参加者45人ぐらいのうち1人がランダムに選ばれていた。
なんだか、この偶然にも驚いた。

みんなの発表が終わると、Rainy Day Bookstore & Cafeのスタッフさんが作ってくれたおいしい料理と、みんなが持ち寄った1品を食べる。ワインやビールも。
久しぶりに会った仲間たちと、様々な話しをして楽しいひとときを過ごした。
みんなの発表の話し、本の話し、山の話し、岐阜出身同士で岐阜の話し、旅の話し、近況など。

Rainy Dayに集う時間は、かけがえのないものでとても幸せな瞬間だ。
来年の幹事を決めて、会は幕を閉じた。

送信者 ドロップ ボックス

今回の僕の発表原稿。
今年一年を振り返った話しを書こうと思っていたのに、以前ブログにも書いた以下の文章を発表したい気持になった。
そこで一部リライトして、発表することにした。
今年の話しでもないし、僕とは直接関係ない話し。
でも、今年の1年を総括した話しでもある気がする。

===

僕がこの町に引っ越してきたのは3年前の12月だった。
引っ越して間もない頃、コンビニ弁当を食べる気分にもならず、まだコンロもなく自炊をする訳でもなく。
そんな休日の夜に暖簾をくぐったのが初めてだった。

暖簾をくぐったといっても居酒屋ではなく、中華料理の定食屋。
外にメニューもなく、磨りガラスで店内も見えない。
古びた建物に「中華定食」と書かれた暖簾がかかっているだけ。
入るのにちょっと躊躇したけれど、家から一番近いという最も強い動機に後押しされ、引き戸を開けた。

とてもこじんまりとした店内には、カウンターに丸イスが7脚ほど。
イスの後ろを通るのがやっと、といった具合の狭い店。
画用紙にサインペンで書かれたメニューには、ところどころ油のシミがついていた。

餃子定食 550
豚玉定食 600
確か餃子は単品で300円だった気がする。

定食はこの町に合った値段でみそ汁、ご飯、お新香がつくという、ごく普通の店だった。
店主のおじさんは、白い肌着を着て中華鍋を振っていた。
ご飯とお味噌汁そしてお新香の担当はおばさんだった。
定食は二人の連携プレーで、すぐに出てきた。

飲み物を頼まなければ水すら出ない、不器用だけどまじめにやっている、そんなこの店が好になった。
ずっと一人暮らしをしているせいか、仕事から帰り無口なおじさんとおばさんを見ていると、なんだかホッとした。
家からも近く、安く栄養バランスも取れて、腹もふくれる。
そして、おじさんとおばさんの人柄が作り出す、居心地の良い店だった。

数ヶ月が経ち店の前を通ると、「しばらくの間 休みます」との張り紙があった。
数日ぐらいかなと思っていたけれど、1週間、2週間経っても張り紙はそのままだった。
せっかく見つけたお気に入りの店が、すぐに休業とは残念だった。
また、別の定食屋を見つけよう、そんなことを思っていた。
とは言っても、この店に未練があり、店の電気がついていないか毎晩チラチラと見ていた。

半年ほど経ったある日、店に電気がついていた。
また、やっている。
「明日の夜は行こう」そんな気持ちになった。

そして、雨がしとしと降る夜、久しぶりに暖簾をくぐった。
店には数人のお客さんがいた。

「玉豚定食、お願いします。」
僕は定食が出来上がるのを待ちながら、新聞を読んでいた。

すると、お客さんとおじさんの話しが耳に入ってきた。
50歳ぐらいの男の客は20年以上前にこの近くに住んでおり、常連だったそうだ。二人は当時のこと、そして今のことを話していた。

52歳という若さだったと言う。

半年が経ち、おじさんは一人で店を再開した。
少しためらいながら、小さな声で
「180日経った今も、毎日泣いてるよ。
昼はいいんだけど、夜になると一人ぽつんと、どうしようもなく寂しくなる。
仕事をしていると、お客さんに聞かれてまた思い出す。
でも、仕事をしていると気がまぎれるんだよ。」

「50年生きてきたのに、セレモニーはたったの2、3日ぐらい。そんなの寂しすぎるよ。」
おじさんは常連客にそんなことを話していた。

おじさん1人になってからもう2年近くが経った。
以前は年中無休で、やっていた店。
最近は「しばらく休みます」の張り紙がたまに出ている。