日別アーカイブ: 2010/12/5 日曜日

その日の前に

お米は毎日食べたい。
水泳は1週間に2回はしたい。
山は月に2回ぐらい行ければいい。
ラーメンは2,3ヶ月に一度かな。
海外旅行は1年に1度は行きたい。

どんなモノにも欲する頻度がある。

僕にとって重松清さんの作品は2年に一度ぐらいだ。

どんな状況の時かは分からないけれど、2年に一度ぐらい読みたくなるのだ。
重松清さんの本でしか生まれない、あの心の中で起こる揺らめきを味わいたくなるのだ。

そんなにたくさん重松作品を読んだことがあるわけではないけれど、どこにでもいそうな人が直面する問題や幸せが自然な文章で書かれている。

今回は「その日の前に」重松清
タイトルからすぐに、テーマが想像できる。

ごくごく当たり前に思っていた日々の暮らしが、突然まったく違う意味をもった時間になる。

変わってゆくもの
変わらないもの

物悲しさ
誰もが抱える悩み
ささやかな喜び
家族の亀裂
家族のぬくもり
子どものいじめ
幼い頃の思いで
やりきれなさ

不幸なことは自分には起こらない。そんなことを思っていても突然どこからか降ってくる。まっ白になる。
人生は思い通りなんていかない。
そういうものだと思えてくる。

自分は経験していないけれど、本の中の事が自分が目の前でぶつかっている出来事のように感じられる。
本の中に出てくる世界は、僕が日々暮らしているような平凡な等身大の人がありのままでいるからだ。

この世界はいわゆるハッピーエンドでは終わらないことがほとんどだ。
どうしても解決できないことがある。
でも、それが全て悲しいことではない。
直面したことを受容することが出来ることもある。
そして、どうであるにしろ、どんなことが起きても時間だけは流れて行く。

その日の前に、出来ることがいくらでもある。

重松さんの本を読んだ後は、
大切なものやこと、ひとを大切と改めて感じられる。
なんだか優しい気持になれる。

送信者 ドロップ ボックス

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この本には、短編が7編収められているが、その短編はそれぞれが切り離されているのではなく、繋がっていることに後半に気づく。
こういった構成や、何気ない描写が身近さを増すのだろう。

そして、いつも思うのが重松さんは世界で起こっていることを、そのまま見ることが出来る方なのだろう。
さらに、とても細かなしぐさや感情の振れに気がつく方なんだろう。
最終的に感じとったものを組み立て直して、小説にされている感じがする。
是枝裕和監督に近いものを感じる。

送信者 ドロップ ボックス

以下、気になった部分の引用。

うまく言葉にして伝えられないことは、だからこそずっと手つかずのまま、思い出話の中ですり減らされずに、記憶にくっきりと残っているものなのかもしれない。P23

夕日の沈む地平線の先—「永遠」を目指して、ひとは歩きだすのだろうか。それとも、「永遠」から逃げ出したくて、死ぬまでの旅を始めるのだろうか。P72

「永遠」などというものは、ありえない。それを昌史が教えてくれた。「永遠」につづくかのように見えるものも、なにかを一つしくじっただけで、一瞬にして、あっけなく、終わってしまう。「永遠」につづいたものがあるとしても、それはただ、「たまたま終わらなかった」だけというだけのことなんじゃないか、とも思う。P72

ならば、ついさっきまで行きていたひとが一瞬にして亡くなってしまうことだって、すごい。命はこんなにもあっけなく消えてしまう。ひとの人生はこんなにもたやすく断ち切られてしまう。ドラマの最終回のような盛り上がりもなく、ただ、終わる。それはそれで、すごい—悲しさや悔しさを取り払ったあとに残るものは、やはり、その一言しかないのかもしれない。P79

終わりのない最後と同じだ。

だが、小学校四年生の少年たちを動かしたり押しとどめたりするものは、理屈ではない。子どもの心に、理屈はなんの力も持たない。P111

でも、母ちゃんは「いる」—それだけで、いい。うまく言えないけれど、母ちゃんの役目は「いる」こと何だと思う。P145

あとになってから気づく。あとにならなければわからないことが、たくさんある。P179

どんなに理屈で納得しようとも、決して消えない感情がある。P198

「ひょっとして、最後の思い出づくりで来たんだと思ってた?」P209

僕は思ったよ。恥ずかしくても、ベタな感じでも、かっこわるくても、青臭くても、無駄に思えても、めんどくさくても、人生には思い出を作らなきゃならない時があるんだと。2010, Nov 14(twitterでつぶやいたこと)と同じだな。

日常と言うのは強いものだと、和美が病気になってから知った。毎日の暮らしと言うのは、悲しさや悔しさを通り越して、あきれてしまうほのあたりまえのものなのだと—うまい言い方が見つからないまま、思い知らされた。P216

「・・・自分の行きて来た意味や、死んで行く意味について、ちゃんと考えることができますよね。あとにのこされるひとのほうも、そうじゃないですか?」
「でも、どんなに考えても答えは出ないんですけどね」P279