日別アーカイブ: 2016/2/24 水曜日

LOST WORLD8 “This is 最高!”

風が強かった。テントがひん曲がるほどの風は久しぶりだった。テントに戻っても、ほんの少ししかねなかったようだ。外で物音がして、外に出ると淡いピンク色の空が朝が来ることを告げていた。今日は、良い日になるに違いない。淡く美しい空が広がっていく。ロライマの絶壁を赤く染める。空に浮かぶ雲も紅に染まっていく。ひんやりと、そしてキリッとした空気がまた、美しさを際立たせる。朝食もそこそこにして、ずっと空を眺めている。空の色が変化していく、ずっと見ていても飽きることのない光景。


ただ、今日は下山してサンタエレナの町まで戻らなければならない。そして、トレイルヘッドまで25キロ以上ある。迎えのトラックの時間も決まっている。でも、ロライマが僕を引き止める。帰してくれない。こんな美しい世界を見せてくれたら、帰れなくなるじゃん。そんな気持ちだ。

ただ、時間というものは待ってくれない。待ってくれないからこそ、この美しい空を作り出している。と、空を見ながらも手早くテントを片付ける。出発しなければならない、帰りの車を考え5時過ぎに出発する予定が5時半になってしまった。相変わらずガイドは先に下っていく。僕とタクジさんは、最後のロライマを名残惜しむかのように、ひたすら写真を取り、深呼吸をしてロライマを味わい尽くしている。おのずと歩みは遅くなる。どうしようもなく、いい空、いい山、いい景色なんだ。この山に来て一番の天気が最後の日に訪れるなんて、もう1日山にいろと言われているかのようだ。

虹が出た。昨夜の雨のおかげだろうか。虹はテプイを覆いかぶせるようにおおきくかかっている。ありとあらゆる表情のロライマが僕らを迎えてくれた。雨、風、青空、星空、流れ星、虹、暴風、夕焼け、朝焼け、もうこれ以上の表情なんてないんじゃないか、そう思える程だった。偉大という名のロライマは、本当に偉大だった。下山していくと、多くの登山者が登って行くところだった、年末年始に差し掛かるので、ピークシーズンなのだろう。


ぼくらは、何度も後ろを振り返り、振り返りロライマを眺めながら歩いていった。第1キャンプの川を渡り、前日までの大雨で川が増水して、2階渡渉しないといけないという。数日前に渡った川は小川だったのに、そんなにも増水するのかと、再び保水力がないことを実感した。噂通りの増水でザックに全て片付け、ズボンをまくりあげて川を渡った。25キロの長い道のりを歩くのも、これだけの景色が見続けられると、曇だった行きのような長さを感じることはなかった。

11時30分にトレイルヘッドの村についたが、迎えの車は来ておらず、受付で石や植物を盗んでないか、ザックを全て開けてチェックされた。近くの掘っ立て小屋の売店にセルベッサ(beer)が売っていることをタクジさんが見つけて買ってきてくれた。そして、サルー(乾杯)!いやー、うまい。心地よい、最高の気分だ。思わずふたりとも笑みが溢れる。しみじみと、この最高の山行を回想していた。良かった、実に良かった。最高だった。

車が迎えにきて、乗り込む。行きと同様に転倒すると思うぐらいに車は右に左に揺れながら、デコボコの登山道を下っていく。ただ、疲れているはずなのに、この揺れすら心地よく感じてしまう、そんな気持ちにさせてしまうロライママジック。

満たされ、幸せな感情浸りながら、車でロライマを振り返っていた。タクジさんに感想を聞くと、

「よかったよ、ただそれだけだよ。」
「This is最高!」

まさに、そうだった。これが最高だ、それ以上の言葉は存在しない。今は、心地よい疲れが心と体を満たしてくれている。

日本出てから100時間以上かけて、トレイルヘッドまでやってきた。長い雨もあり、停滞もし、でも目の前の雲が風とともに消え去り、ロライマが現れた。思わず、口をつく。言葉にならない声が、心の奥底から脊髄反射で出たロライマのっ姿。うまくいくこともあり、いかないこともあったけれど、移動しながら、人と触れ合い、自然と向き合い、天気にヤキモキしながら旅を続ければ、旅はおのずと旅らしくなっていった。

サンタエレナに着く途中のバスターミナルでシウダ−ボリバルかプエルトオルダス行きのバスを探したが、すぐはなかった。夕方にあるようだったので、いったんサンタエレナの町に向かった。ロライマに行く前に行った宿に行き、1部屋とった。まあ、安いしシャワーを浴びてゆっくり荷物を片付けるためにも必要だし、夜行バスに乗れなかったら戻って泊まればいいし。シャワーを浴びてすっきり。

腹が減った。まともなものが食べたい。町に出るが、あまり店はやってない。年末年始だからだろうか。一番があり、何軒かやっていたが、ポジョ(鶏肉)はなく、ペスカード魚のみだった。まるっと揚げた魚を、カラカスから旅行に来ていた家族と食べた。やはり、地上の飯はうまい。

宿に戻り荷造りをして、タクシーでバスターミナルに向かう。窓ガラスもしっかり閉まらない、ボロいバス。旅に出たら、現地を味わいたい。できれば、ローカルバスも、タクシーも、歩きも、電車もいろいろ乗って、その国を知りたい。ということで、地元民が乗るローカルバスに。こういった考えはタクジさんと似ている。

とは言え、実際に乗ると一番後ろの椅子でリクライニングは倒れない。さらに、前の席の人はMAXにリクライニングを倒して狭くなるw長距離バスなのに、トランクがなく、バックパックは足元。さらに、スピードが出ると風が入り込んで寒すぎる。爆音で現地の音楽が流れ、斜め前の兄ちゃん4人はゲイw、さらに隣のカップルは大きなアイスボックスを足元に置いて、氷とロンを取り出して飲み続け、泥酔。もう、笑うしかない。2人でばくしょうした。学生じゃないんだからとw10年以上前の旅を懐かしむかのように、今の時間を楽しんだのだった。幸運だったのはつかれていたので、こんなバスでも寝れたこと。こうして、シウダ−ボリバルへと向かった。