【Amazing Summer 2012】モンブラン登山~モンブランににしがみつく~

前回の旅日記【Amazing Summer 2012】マッターホルン三昧とモンブラン登山打ち合わせ

一通りの準備をして眠りについた。翌朝、目を覚ましてココアを入れ、ベランダでパンを食べる。前日の夜に携帯のメールにヘッドライトを持ってくるように連絡がきた。ヘッドライトを追加。7時にガイドのLouis Bourdeauとミディのロープウェイで待ち合わせをしていたので、歩いて向かう。今日は天気も良く明日以降に崩れることが信じられない気もする。モンブラン登山は3日の予定だった。初日はテスト。このテストはガイドさんが、俺の技術や高度順応のレベルを確認するもの。一緒にザイルを結んで命を預け合うので、このテストが必要になるのだ。2日目に登山を開始して小屋に泊まり、3日目の未明に小屋を出発して頂上へアタック、そのまま下山。こんなスケジュールだった。

From モンブラン登山とUTMB2012

まず、初日はテストということで、どんなテストかなとちょっと不安な気持も抱きつつ、ロープウェイ乗り場へ。すると、すでにLouisさんは来ており、ガイド仲間と話しをしていた。チケットを買って、ミディの展望台へ。ミディは3800メートルほどで、ここまでロープウェイで一気に上がれる。富士山よりも高い場所にだ。普通は高山病の心配があるが、日本でも富士山に通い詰め、こちらに来てからも毎日のように3500メートル以上の場所を走っていたので、特に問題はない。

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ミディ展望台に着くと観光客は展望台へと向かい、景色を眺める。しかし、登山者はそんなことには一切目もくれず、登山口へと向かい、アイゼンを装着し、ハーネスを付け、ガイドさんとザイルを結ぶ。登山口は、岩をくり抜いた薄暗い道の先にある。胸の高さぐらいまである柵があり、そこにはアルピニストだけの世界だから、一般人は立ち入るなと書かれた看板があった。この柵を開けて登山口へ行くかと思ったら、ガイドさんが柵を乗り越えた。そう、この柵は開かない柵なのだ。乗り越えるのみ。柵を乗り越えるという行為が、自分の気持を引き締めた。ここから先は気を引き締めなければならない。多くの危険が潜んでいる。

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ピッケルを持つ際にシュリンゲと呼ばれるロープを付けて、体に巻くか手で持つのが日本ではメジャーになっている。今回も何気なくそんな風に準備したら、Louisさんがそれはダメだという。手で持つだけにしろと。滑落した時にピッケルが手から離れたら滑落停止ができないじゃないか?と言うと、滑落してピッケルが体にまとわりついて怪我をするリスクの方が高いと言う。こんな所でも、ヨーロッパのスタイルと日本のスタイルの違いを知る。今回は、言われた通りに手で持つだけにした。

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そして、モンブランへの扉を開く。洞窟の岩穴を出ると、まぶしい光が目に飛び込んできた。まっ白の雪に太陽の光が反射してまぶしい。サングラスがなかったら目なんか開けていられないほど。目が慣れて飛び込んできた世界は、想像を遥かに越えた光景だった。幅にして30センチの稜線。こんなナイフリッジは始めてだ。両サイドは1000メートルほど切れ落ちており、滑落したらどこまでも落ちるのは確実だ。さらに、斜度がかなり急なのだ。距離も長く数百メートルは続いていた。一瞬、躊躇した。これは無理だ。

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冷静になれば、モンブランは甘くないぞと最初から登山者を戒めているようにも感じた。一歩一歩、確実にゆっくりと進んだ。心臓はバクバクだったが、こんなときこそ冷静にならなければならない、そう自分に言い聞かせて、できるだけリラックスして1歩に集中した。つま先を開く感じで、踏ん張りがきくように降りていった。特に急な所はドキドキした。切れ落ちた底をあまり見ないようにして、目の前の一歩、その先の一歩を見るようにして降りた。下から登ってくるアルピニストも降り、すれ違うときは、サイドに足場を作ってよけた。ときおり風が吹くと、体が煽られドキッとした。

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なんとか、このナイフリッジの部分が終えた。下りなのに、汗をびっしょりとかいていた。それだけ神経を集中していたということだろう。広い場所に来ても油断は出来なかった。ふと気づくと深く落ち込んだクレバスが何カ所にもあった。ここも落ちたら終わりだ。迂回したり、飛び越えたりしながら歩いて行った。Louisさんがミディのロープウェイがある崖(壁)の下まで来たところで、アイゼンを取ってピッケルを片付けるように言った。何かと思ったら、この壁を登ると言う。えっ?クライミング?モンブラン登山にはクライミングをする場所はほぼない。それなのにクライミング?一瞬の間、理解が出来なかった。

From モンブラン登山とUTMB2012
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聞いてみると、登山技術と高度順応を試すためには一番簡単な方法だからだと。壁は500メートルほどの高さで、上を見上げるとロープウェイ乗り場や展望台が見える。こんなところを登るのか!いったいどこまで登るのだろう?そんな疑問を抱きながら、準備をした。壁に取り付く。しっかりしたホールドが見つかる所もあれば、まったく見つからない場所もある。しかし、先にLouisさんが登るので、そのルートを見て、手や足の置き場を真似しながら登って行く。

From モンブラン登山とUTMB2012
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クライミングをすると思っていなかったので、ザックの荷物が非常に重かった。一眼レフカメラや着替え、食料などすぐには使わないモノがたくさん入っていた。そのため、クライミングする時に腕や足の筋肉が余計に必要になった。しかし、そんなことを言ってもしかたないので、ただただ目の前のホールドを探し、足場を探った。ずっとザイルを結んでいたら、スポードが遅いので、要所でしかザイルは出さなかった。そのため、手を離せば真っ逆さまに落ちる。真っ逆さまに落ちれば大けがをするか死ぬ。それは明白な事実。先ほどのナイフリッジもドキドキしたが、このクライミングもドキドキしながら、なんとかLouisさんに食らいついて登って行った。

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どうしても登れない場所は、ザイルを出してもらって引っ張ってもらった。そんな時に、足がずりずりと滑った。少しずつ耐えられなくなり、足と手が落ちて行く。どうしよう、なんとかしてしがみつかねばならない。落ち着け。そんな風に考えながら、安定したホールドをわらをもすがる思いで探した。ザイルで結んでいたので、何事もなかったが、もし結んでいなかったら、ジリジリと落ちて行く自分。その恐怖におびえながら、どう対処するかを考えて行動しなければならない、そんな極限状態に顔が青ざめる思いだった。

From モンブラン登山とUTMB2012
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自分の身長ではどうしても届かない所にホールドがある場所では、足の筋肉を最大限に使ってプッシュ。それで手を伸ばして何とか引っ掛ける。そんなことの連続。20分に一度ぐらいは安全に立っていられる場所もあるので、そこにくるとホッとした。体を休めて、周りの景色を見た。とんでもない所にきているな。そして、水を飲んだ。Louisさんは水も飲まない、食べない、休まない。のどが乾いたと言うと、ヨーロッパのアルピニストは数時間ぐらいは水も飲まない、食べない、休まないよ。それがアルピニストさ、なんて語っていたが、定期的に飲むことに慣れた俺にはハードだった。

From モンブラン登山とUTMB2012

ドキドキハラハラしながら登り、そして休み。また登り、また休み。それを繰り返した。もう嫌だ、もう限界だ、そんな気持が頭をよぎるのだが、今そんなことを思ってもマイナスでしかなく、何も解決しない。今は、安全にクライミングを終えることに全てを集中する。そう言い聞かせた。足の筋肉にかなり疲労がたまってきていた。普段は長距離を走っているので、瞬発力の筋肉は使っていないからだろう。ただ、クライミングをしている間にコツもつかんできて、だんだんうまくクライミングできるようになってきていた。

From モンブラン登山とUTMB2012
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休んでいる時に、見渡す景色が徐々に変わる。どんどん高くなっているのだ。Louisさんが、「congratulation」と言った。まだ途中なのにと思っていると、目の前にミディの展望台があった。いつの間にか、こんな所まで登っていた。ガムシャラすぎて気づいていなかった。展望台の柵を乗り越えれるようにはしごがかかっていた。このはしごを登って、展望台へ。ふっうー。ホッ。とした。ここまで来たら安全だ。何とかクライミングが終了した。

From モンブラン登山とUTMB2012
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Louisさんが「タケシは、高度順応も技術も充分だから、明日から一緒にモンブラン登山をしよう」。そう話してくれたときはうれしかった。と伴に、またモンブラン登山への緊張も走った。天気がどんどん悪化するらしく、明後日は最悪だという。そこで、スケジュールを変更したいと。今晩、コズミック小屋に宿泊し、明日の未明1時に小屋を出発し、モンブランスリーサミッツのルートでアタックすると言われた。こればっかりは、従うしかない。念のためにアタックすることも想定して荷物を持ってきていたので、問題なかった。

またミディのロープウェイ乗り場から登山口へ。今朝と同様に柵を乗り越え、ナイフリッジへ。ドキドキしながら降りて行く。しかし、1度歩いた道なので、最初よりは速くかつ冷静に降りることが出来た。もちろん、緊張しながらだったが。そして、雪原を歩き、クレバスを越えていく。すぐにコズミック小屋は見えた。少し登り返して、コズミック小屋に到着した。アイゼン、ヘルメット、ハーネスなどを取り外して、小屋へと。

From モンブラン登山とUTMB2012

今までが嘘のように、かわいらしい内装で暖かい小屋だった。ほとんど人がいなかった。Louisさんが、タケシの荷物は重すぎる。これじゃモンブランは登れない。入らない物を俺が見て、荷物を減らさないといけないと話して、俺の荷物を全てザックから出して、必要なものといらないモノを分けた。ザック自体が重いのが問題だが、今回は仕方ないと。そして、最低限必要な物だけをザックに入れて、あとは小屋においておくことに。下山の際に小屋によって荷物をピックアップすることになった。荷物を必要最低限に抑えてこそアルピニストだと教えてくれた。

From モンブラン登山とUTMB2012

それから、自分のベッドを聞き、明日は早い(夜中1時出発)ので、昼寝(夕方寝)をすることにした。どれぐらい寝たか覚えていないが、目を覚ます。小屋には人が増えていた。天候悪化の予報で、登山者が詰めかけたようだった。ベランダから夕暮れのモンブランを眺めたり、Louisさんや登山ガイド、他の登山者と話しながら時間を過ごす。

From モンブラン登山とUTMB2012
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夕食の時間になり、テーブルで待っているととっても豪華でボリュームたっぷりの食事が用意された。同じテーブルだったガイドさんや登山者と話しに花が咲く。モンブランのことUTMBのこと、日本のこと、キリアンのことなど。僕がUTMBを走ると言うと、みんな口を揃えてクレイジーだと言った。俺は100マイルなんて走れないよと。トレイルランナーとクライマーはかなり異なるが、お互いをそんな目で見ている。そして、尊敬し合っている、そんなヨーロッパの文化が素敵だなと思った。クライマーのガイドさんたちもキリアンのことを知っていて、彼はスゴイ、スゴイと口を揃えて話していた。

From モンブラン登山とUTMB2012
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たっぷり食事を頂いて、デザートまで食べて寝ることにした。天気がだんだん下り坂で、雨や風が次第に強くなっていた。しかし、いったん夜中の1時出発前提で寝ることにした。さて、明日の天気はどうなるか?モンブランはどうなるか?そんな期待と不安を胸に眠りについた。

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2 thoughts on “【Amazing Summer 2012】モンブラン登山~モンブランににしがみつく~

  1. いよいよモンブラン登山!続き楽しみにしてますね♪
    それにしてもいきなりのクライミングとは!びびる~

  2. いきなりのクライミングはビックリしました。
    けっこういい加減で、あまり説明とかなかったりすんですよね笑

    でも、とてもいい経験になったモンブランでした。

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