日別アーカイブ: 2012/9/9 日曜日

UTMB2012を終えて

UTMB2012から1週間が経ち、帰国しました。今回の長い夏休みの日記を書こうと思いますが、まずはUTMBに関して。今回の旅の2大イベントのもう片方であるモンブラン登山は、下山直後に時間があったため、その時にメモ的に書いた物があるので、UTMBについて書き残しておきたいと思う。

モンブラン登山では悪天候にみまわれ精神的・肉体的に極限状態にまで達し、半日ぐらいは目がかすむほどだった。そんな疲れを取るために、UTMBまでの1週間をスイスのグリンデルワルド周辺で過ごすことにした。ここはユングフラウ、アイガー、メンヒを望むことが出来る場所だ。結果的に天気にも恵まれ最高のトレッキングざんまいとなった。偶然にもUTMBに出る友達に会い、後半は一緒に山を楽しんだ。

From モンブラン登山とUTMB2012
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かなりリラックスした状態でシャモニに戻り、心折れ部の仲間と合流しホテルも同じ所に変更した。このホテルはスタート会場からも近く、ベランダからの長めも良く、さらにバスタブがついているという僕にとっては天国のようなホテルだった。昼間はみんなと一緒にモンブラン山群のトレッキング、夜になればUTMBに出るたくさんの友達と集まって夕食という楽しい日々を過ごして、大会を迎えた。

From モンブラン登山とUTMB2012
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大会の前々日に受付を済ませ、ゼッケンをもらい、荷物チェックを受け、参加証明のリストバンドを腕につけてもらった。ここでかなり気が引き締まった。と同時に、日々天気予報をチェックし、その状況に合わせて装備などを検討していた。かなり寒く、雨や雪も降るとの予報が出ており、防寒対策をどこまでするか、重くならず寒さをしのげるギリギリを見極めていた。

From モンブラン登山とUTMB2012
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僕が出場するUTMB168キロの前に、TDSという110キロほどのレースがある。このレースはUTMBより距離は短いが標高差があり、かつ制限時間が厳しいタイムレースだ。このレースのゴールを見に行き、選手の服装を確認した。すると、ほぼ全ての人が雨具の上下を着てゴールしており、かつシューズは泥だらけ、ズボンやザックも泥だらけ。かなり寒く何度も転倒しているようだった。TDSに出場した友達の話しを聞いてみると、雪がひどく2000メートル以上は凍えそうなぐらい寒いとのことだった。トレイルもドロドロで何度も転んだと。想像を遥かに超える辛いレースだったと聞き、装備や服装などを再検討することにした。

From モンブラン登山とUTMB2012
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大会側からも当初は最低3枚のレイヤリングという指示だったが、当初のウェアに1枚追加するようにアナウンスがきた。僕はユニクロのヒートテック長袖とダウンベストを追加することにした。ズボンに関しては、何とかなるはずだとの予測から、追加はしないことにした。いったん前日までにレース時に着る服装、デポのポイントに置くドロップバッグ、装備を入れたザックの準備を完了した。UTMBのスタートは31日の18時30分だった。CCCという100キロぐらいのレースが朝スタートする。心折れ部からもこのレースに4人が出場するため、お見送り。その後は、天気予報や大会アナウンスがアップデートされないかをチェックしながら、ゆっくりしたり、TDSのゴールを見に行ったりして過ごした。

From モンブラン登山とUTMB2012
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すると、スタートの数時間前に100マイル(168キロ)ではなく100キロになり、フランス国内のみに変更すると言う情報が入って来た。大会主催者の公式発表ではなかったが、信頼度はかなり高い情報だった。それから、追加の情報を探しにいったり、UTMBに出る仲間と相談した。公式に100キロになることがアナウンスされ、のちほどコースマップなどが発表されるとの事だったが、もうスタートまで時間がない。発表されてから準備していては間に合わない。

そこで、100キロになり、コースが変わることから、以下のことを予測した。
・デポ(ドロップバッグ)がなくなる(途中で着替えとか装備を置いておけなくなる)
・エイドが少なくなる
・制限時間や詳細なコースが不明なまま走ることになる

そのため、乾電池の予備を追加し、着替え用の靴下も追加した。エイドが少なくなるため、食料を増やし水も持つ量を増やした。分からないまま走るので、食料や水の不安を抱きながら走るのは嫌だったため、重くなるのを覚悟して追加で持つことに決めた。こうして、代替UTMBレースの準備を終えた。そのころに、高低図と制限時間が発表された。どのようなアップダウンがあるのかが示され、ポイントごとの制限時間も記されていた。そして、スタート時間は19時に変更された。ただ、エイドのポイントなどは不明なままだった。スマホを見ながら、高低図と制限時間を急いでメモした。普通通りに走れれば制限時間の関門に引っかかることはないと考えていたが、何かがあった場合にはこれを頼りに関門をギリギリでも突破するために重要なツールなのだ。

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レース1時間ほど前にエディさんとミックスさんとホテルを出て、スタート地点へと向かった。すでに多くの人でにぎわっており、熱気が伝わって来た。アナウンスや音楽も流れ気分は高揚してくる。代替レースとは言え、これがあのUTMBか!と実感する。三好さんがすぐ後ろにいらっしゃって、写真を撮ったり、TDSを好成績で完走したソーケンさんやジョリーさんが来て応援してくれた。とても盛り上がっていたが、緊張感などは全くなく、楽しくて楽しくて、ココにいられることに心が踊っているという感じだった。

From モンブラン登山とUTMB2012
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あっという間にスタート時間は近づく、鏑木さんを始めトップランナーがアナウンスされ、大きなモニターに映され最前列に並んだ。かっこいい!するとCCCの優勝選手がUTMBのスタートに合わせたかのように戻って来た。無茶苦茶速い。最高の演出だなと思うが、おそらくそんなことはなく、偶然にもいいタイミングで戻って来たのだ。彼の優勝を祝った後、19時少し過ぎにカウントダウンが始まった。UTMBのテーマ曲が流れはじめ、ボルテージは最高潮。発狂しながら、カウントダウンを大きな声でして、ついにUTMBスタート!始まった。UTMBが始まった。

From モンブラン登山とUTMB2012

いつものようにGoProで動画を撮りながら、スタートゲートをくぐっていく。ものすごい選手の数でもみくちゃにされながら、沿道やホテルの窓から応援してくれる人に手を振ったりして、シャモニのメインストリートを走っていく。途切れることのない人、人、人。子ども、おじさんもおばさんも、おじいさんもおばあさんも。アレー、アレーと声を張り上げて応援してくれる。さらには、大きなカウベルや缶を叩きながら応援してくれたり、横を走る列車は警笛を何度も何度も鳴らしながら、スタートを盛り上げてくれた。

From モンブラン登山とUTMB2012
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しばらくロードを走り、トレイルに入った。芝生の上を走っていく。幸いなことにまだ雨は降っていなかったが、芝生は濡れていた。そこで、ツルッと滑って転んだ。この時に、我に返ったように、ここから長い旅が始まる。スタートの浮かれた気持は少し抑えて、慎重に楽しみながら走ろうと気持を切り替えた。ついでに立ちションもした。

From モンブラン登山とUTMB2012
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ロードの区間もかなりのハイペースでみんな走っていたが、トレイルに入っても、そのペースは衰えなかった。みんな速いなーと思いながら、先は長いので少しキープしながら走ることを心がけた。まもなくして、水の給水があった。コップ一杯だけもらって、そのまま先へと進んだ。山から降りて町に到着する度に、多くの人の応援に元気づけられる。日本人ランナーにもちょくちょく会う。ジローさんやバンビさんなどとも話しながら、走った。

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20時30分近くになり薄暗く、かつ雨が降り始めたので、家の軒先で装備を替えることにした。頭のGoProカメラをヘッドライトにして、レインウェアの上着を着た。そして、ストックを取り出した。すぐに出発したら、ヘッドライトを置き忘れたことに気がついて、急いで戻った。慣れない海外レースは、思わぬ所でミスをしてしまう。落ち着いて行動せねばと、ここでも肝に命じた。次の私設エイドでは日本人と知ると、「おにぎりありますよ!」と声をかけて頂いて、もらった。パンが多く、なんだかパワーにならない気がしていたので、とってもうれしかった。

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そして、真っ暗な中を走っていると、日本の取材班がビデオカメラを持って走って来た。走りながら取材を受けて話したが、何を喋ったかはあんまり覚えていない。たぶん、とっても楽しいです!最高に楽しんで、笑ってゴールします。そんなような事を話した気がする。

みんな、ヘッドライトの電池を取り替える回数を減らしたいから、暗くなっても明りをつけずに走っていた。粘るなーって感じ。僕もちょっと我慢したが、トレイルがドロドロ、マッドな感じだったし、怪我とかしても嫌なので早々にライトをつけた。が、雨は強くなるし霧も濃くなる。メガネに水滴が付き、曇り始める。ライトは明るいはずなのに視界が非常に悪い。レンズの水滴を時おり拭き取りながら進んでいった。雨の練習で帽子と雨具のフードをかぶれば、ほぼ水滴がメガネに付くことはないと実験済みだったが、今回はそうはいかなかった。コンタクトも念のために持って走っていたのだが、手が汚いし、つけるタイミングがなかった。次回からはコンタクトで走って、念のためにメガネを持つスタイルに改めようと思った。

From モンブラン登山とUTMB2012
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渋滞とまではいかないが、なかなか追い越すのが難しいトレイルが続いた。30キロ過ぎの大エイドであるコンタミーヌ(コンタミン)についた。夜の23時40分。この時間なのに応援の人が町にいる。それも雨の中。ありがたい。本当にパワーをもらう。エイドではバナナ、クッキー、オレンジ、スープパスタなどを食べ、珍しくコーラを飲んだ。このあともエイドでコーラを何度も飲んだ。ついでに、ボトルに水を入れてもらった。いろいろな食べ物があれば、できるだけ食べておこうと思って、味見をたくさんした(笑)むしゃむしゃ食べていると、エイドのスタッフがノリが良くて、「ジャパン」と行って来たので、俺も「ジャパン」と答える。ノリでジャパンコールを煽ってみた。すると、続いてきて「ジャポン、ジャポン、ジャポン」と大合唱。気分を良くして、次は「Takeshi、Takeshi、Takeshi」と、タケシコールをやってみたら、さらに多くの人が、「Takeshi、Takeshi、Takeshi」。もう、楽しくなってしまった。ヒーローになった気持で、手を振って「メルシー」といいながらエイドを後にした。

From モンブラン登山とUTMB2012
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すると、沿道にジョリーさんとなっちゃんが応援に来てくれていた。TDSのレースが終わったばかり&雨の夜中に。とってもうれしかった。「いいペースだよ」と教えてもらい、出発した。どんどん登っていき、バルムという2000メートル付近を走る。ここでは、雪が降り、風も強くなった。トレイルも岩がゴツゴツしていた。かなり冷えてきた。このままだと低体温症になる可能性がある。しかし、トレイルは狭く、荷物を降ろして着替えることが出来ない。しかたなく、スピードを保ち心拍を上げて体の熱量を保った。さらに、温度を下げないように足の指や手の指をグーパーグーパーと動かして凍傷などにならないように気をつけた。もちろん、食べる量も増やして、可能な限りの対策をとった。

From モンブラン登山とUTMB2012
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狭いトレイルを抜けた。小屋みたいな物があって、そこで何人かの選手が避難していた。俺はそこまで寒くないし、外で服を取り出した。ダウンベストを着て、スマートウールのアームウォーマーをした。その上からレインウェア。バラクラバをかぶり頭を覆った。グローブも完全防水の雪山用のグローブを手袋の上からつけた。レインウェアのパンツも履こうか迷ったが、そこまで寒くなかったのとバーサライトパンツは靴を脱いでしか着ることが出来ない。ドロドロになった靴を脱ぐのが嫌だったので、そのままいくことにした。念のためにたくさんの服を持って来たが、まさかここまで着るとは思ってもいなかった。UTMB恐るべし。エイドには焚き火などもあり、暖をとったり服を乾かしている人もいた。

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ぐちゃぐちゃでドロドロのトレイルを下っていく。足がとられるし、滑るし、スピードは出ないし、筋肉は疲れるし、なかなか手こずった。そんな時に、アメリカ人にあった。このアメリカ人は、レースの数日前にミディという展望台のロープウェイで会い、話しかけた人だった。彼ら2人はUTMFに興味があると話していて、過去にはウェスタンステイツ100マイル、ハードロック、リードビルなど名だたるレースを完走している強者だった。そんな彼らとはレース前に、町中であったり、レストランであったり、何度も何度も会って仲良くなっていた。こんなところで会うとは!と二人で喜んで、握手を交わした。彼は登りに強いらしく、先を行った。(結果的に失速したらしく、1人は19時間代、もう1人は20時間代ぐらいだったよう。)

From モンブラン登山とUTMB2012

ループコースであったため、再びコンタミンに戻って来た。ちょうど半分ぐらいを終えた所だった。ここで夜中の3時45分ぐらい。エイドでたくさん食べて、出発する。このエイド前後で、なんども眠気が襲って来ていた。いつもの対策をとる。まずは音楽を聴きながら、大きな声で歌う。そして、カフェイン入りのジェルを飲む。これでなんとか眠気と戦っていた。しかし、それでも眠い。100キロのような短いレースで寝る訳にも行かないので、今回始めて投入するカフェイン錠剤。これを飲んでみた。すぐには聞かなかったが、20分ぐらい経つと目がさえてきた。とは言っても眠いときもあり、寝たら危険だ、気合いだ気合いだと、自らに言い聞かせ続けて、眠気を飛ばした。

From モンブラン登山とUTMB2012
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朝の7時が近づくと空が白んできた。しかし、天気が悪いので明るくなるのにも時間がかかる。ヘッドライトの明りが弱まりはじめていたので、空が明るくなってくれてちょうど良かった。ドロドロで滑りまくる下り坂がずっと続いた。ストックをうまく使いながら、なんとか転倒することなく降りていった。それにしても、長く続くので、嫌らしいなと思っていた。なんとか、ここを抜け、明るくなったので、ヘッドライトを外して頭にGoProのカメラを取り付けた。そして、雨もほぼ止んだし朝になり暑くなると予測して、レインウェアを脱ぎ、アームウォーマーも取った。

From モンブラン登山とUTMB2012
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雲の切れ間から山が見えたので、写真を撮ると、数枚で電池切れ。また、ザックを降ろして電池交換。カメラを持っていると時間がかかる(笑)でも、後から見ると楽しいから、やめられない。電池を替えてスタート。写真を撮りながら走っていく。スタートしてすぐに通ったエイドを再び通過。ここの町にも朝早くから多くの応援してくれる人がいた。70キロを走り夜を徹しているので、少し疲れもあり、この応援が元気をくれた。ここから20キロエイドがないと聞いたので、水もたくさん持って、食料もいくつか頂いて出発。結果的には10キロ先にエイドがあった。急遽変更したコースのため、エイドのスタップの方も状況を正確につかめてなかったようだ。

From モンブラン登山とUTMB2012
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そして、再び登りへと向かった。この登りがアスファルトの登りで、単調だ。永遠に続くのではないかというほど、つづら折りの道が続く。早く終わってくれ、早く終わってくれと思いながら、一歩一歩登っていった。単調だと眠くなる。睡魔との戦いもキツかった。ストックに体重を任せて頼りつつ、何とか登りきった。朝になり暖かくなると予想して、服を脱いでいたが全然暖かくならないので、アームウォーマーとレインウェアを再び着て、トレイルへと入っていった。トレイルに入ると自然と体が元気になる。いつもだけど、不思議なもんだ。走ることが楽しくなって、体が軽くなる。下り基調のトレイルと楽しく駆けていった。

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しかし、残り30キロが長かった。自分の走っているペース、登り下りの傾斜、経過時間、トレイルの状況などを総合的に踏まえて、自分が何キロぐらい走ったかはいつもほぼ分かる。しかし、その感覚では85キロに近づいていると思っても、なかなかチェックポイントが来ない。おかしい。進んでも進んでも来ない。さらに、高低図にはない登りが何度かやってくる。あまり高低図を見て、それを信じて走るタイプではないが、大まかなアップダウンは頭に入っているので、それと違って登りが続くと、気持ちが疲れる。そこで、あの高低図はもう忘れようと決めて進むことにした。幸いに、タイムも順調にきており、制限時間は気にしなくて良かったので、高低図は自分の脳からは消し去った。

From モンブラン登山とUTMB2012

山の中を走っているとUTMBのゴールのアナウンスが聞こえる。木々の隙間から覗くとシャモニの町の裏を走っていた。速い選手はゴールしている頃だなーと、ゴール会場を夢想した。このまま山を下りればすぐにゴールかと思いながら、シャモニの町をどんどん離れて走っていった。永遠に来ない85キロ。またトレイルの登りがくる。なかなか刺激的だ。登りに強いという外国人選手達も途中で、座って休憩している。

From モンブラン登山とUTMB2012
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登りを何とかクリアして、下り。かなり足が疲れていたが、まだ走れるので、下りはサクサクっと走っていった。これもストックがあったからだ。フラットな道も、辛いけれど小走りで。すると、町にやってきた。そしてエイドがあった。ここはどこですか?と聞くと「ゴールまで残り10キロのアルジョンティエール」だという。ゴールまで10キロと言うことは、93キロ地点。そうか、85キロのチェックポイントは存在しなかったのだ。

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時計とにらめっこする。あと10キロ。17時間23分ほど経過していた。20時間はほぼ確実に切れる。19時間切りはこれからのアップダウンと僕がどれだけ走れるか次第。基本は下り基調なので、いっちょ走ってみるかと思い、走ることに。しかし、下り基調とはいえ、細かな上り下りが続く。下りとフラットな所は出来る限り走るようにして進んだ。ここで、問題が。ウンコがしたい。ここで問題が発生した訳ではなく、少し前から発生していた。しかし、エイドでトイレに行くことを忘れていた。ヤバイと思いながら、茂みを探すが芝生が続き丸見え状態。どうしようかなと思って走っていると、家が遠くに見え始めた。町中でノグソはまずいし、民家に訪問して頼もうかと思っていた。そんな時、小さな小屋が目に入る。農機具の倉庫かと思ったら、なんとトイレ!と書いてある。もう、神様が用意してくれたとしか思えない場所にあった。汚いかと思って入ったら、高級ホテルのトイレかってくらいキレイ。もう、涙が出るくらいうれしくて、スッキリして、トイレを後にした。その後は、少し快調に走れるようになった。ほぼフラットな道になり、速くはないがペースを保って走った。

From モンブラン登山とUTMB2012

残りの距離が分からないので、応援の人に聞きながら。でも、みんな分かってないので、自分の感覚で調整しながら走った。遠くに町が見えた。受付をしたスポーツセンターが見えた。もうゴールは近い。すぐそこだ。帰ってきた。シャモニに帰ってきた。スポーツセンターの脇を走る。すると、UTMBを完走した人や町の人が応援してくれる。「ブラボー、ブラボー、コングラチュレイション!」僕も「メルシー、メルシー」といいながら、声援に応えた。うれしかった。ここまで来た。しかし、時間が気になって時計を見る。19時間ギリギリだ。グロスタイムだとあと数分しかない。しかし、スタート時間が19時ではなく、19時5分ぐらいだったので、正確なネットタイムだと10分ぐらい余裕はあった。ネットタイムで正確に計測している気がしなかったので、なんとかグロスタイムでも19時間を切ろうと、スポーツセンターを猛ダッシュ、川沿いの道も猛ダッシュでシャモニの町に入り、目抜き通りを駆け抜ける。ふと前に眼をやると渋井さんが待っていてくれた。うれしかった。女王と前田マンも。ゴールで仲間が出迎えてくれると本当にうれしい。ゴールは心折れ部Tシャツになろうと思った。服を脱ぐ時間を1分ぐらい考えて走ってきた。すると、予想外の出来事が。なんと遠回りして迂回した後にゴールゲートに行くルートになっていて焦る。19時間が。。。心折れ部Tシャツになる時間がなくなり、渋井さんから心折れ部の旗を受け取って、死にものぐるいで、ゴールゲートまで猛烈に走り抜けた。

From モンブラン登山とUTMB2012
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ゴールの脇には多くの人が詰めかけていて、ブラボー、ブラボーと声をかけてくれる。最高に幸せだった。うれしかった。そのままゴール。陽気なおっちゃんのアナウンスで「タケシ テラマチ ジャポン」とアナウンスされる。今の気持はどうだい?とインタビューされ、「HAPPY!」と答えると、オヤジも「BE HAPPY」と連呼した。そして、「次は100マイル走りたい」とも付け加えた。かなりダッシュで息があがり過ぎて、何を聞かれ、何を答えたかも明確ではないほどだった。日本の取材班にも映像を撮られていて、何かを話した。

From モンブラン登山とUTMB2012

猛ダッシュしたせいで、汗が滝のように流れ落ちた。その汗が目に入った。その汗の痛みの涙とうれしさの涙が合わさった涙がこぼれ落ちた。渋井さん、前田マン、女王に祝福してもらい、憧れのフィニッシャーベストを受け取った。まだUTMBを走っている仲間はゴールしていないとのことだったので、ホテルに戻ってシャワーを浴びて、洗濯だけした。そして、またゴールに戻り、仲間のゴールを待った。

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たくさんの日本人が続々とゴールした。外国の選手も親子や夫婦で一緒に走りきってゴールしたり、ゴール手前で赤ちゃんを抱きかかえてゴールしたりと、選手一人一人のゴールの姿があった。どの選手もそれぞれの思いを抱いて、UTMBに参戦し、コースは変更されたけれど最後まで走りきり、その瞬間を味わっているようだった。本当に汚れのない美しい笑顔の連続だった。友達も続々とゴールに戻ってきた。ライブトレイルという、チェックポイント通過時間が分かる仕組みがあったので、ゴール時間を予測しながら待っていた。岡野さん、じろうさん、ミックスさん、そしてエディさんが次々とゴールした。ゴール会場はどんどん盛り上がり、あの瞬間、世界で最も歓喜に沸いた空間だったような気さえする。こうして、僕のUTMBは終わった。

From モンブラン登山とUTMB2012
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From モンブラン登山とUTMB2012
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最後に、正直なことを話すと100マイル走りたかった。そして、あの気象条件でも100マイルを完走できたと思う。実際に走っていないのに、こんなこと言うのは卑怯な気もする。でも、やっぱり走りたかったし、いい天気で美しい景色を眺めたかった。そして何よりも、モンブランの周りをぐるっと一周して、再びシャモにも戻ってきたかった。そんな思いが強い。一方で、2000人以上が出場する大会で、あの悪天候であれば様々な危険を伴うのも事実、主催者としてはコース変更は正しい判断だったのだと思う。そして、急遽100キロコースを作って開催してくれたことに、心の底からありがたく、うれしく思う。

憧れや夢はそう簡単には実現しないもの。あまりに簡単にかなえてしまうと、面白みがなくなってしまう。人生をより楽しめるようにUTMB100マイルは少し遠くへと逃げていった。でも、いつの日か、かならずUTMBモンブランをぐるっと100マイル走りきって、その夢を成し遂げたいと思う。その瞬間まで、楽しみはとっておこうと思う。

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