日別アーカイブ: 2009/3/4 水曜日

戦場でメシを食う

最近、本の感想を書いていなかったので、先日読み終えた本について。

戦場でメシを食う 佐藤和孝 新潮新書

「戦場でメシを食う」というタイトルは刺激的なタイトルで、まさにそのタイトルが気になり手に取った。すると、著者の佐藤和孝さんはジャパンプレスのジャーナリストで、日本テレビのアフガン中継などで何度か拝見した事のある方だった。ガタイの良い体つき、厳つい目、そしてヒゲ。まさに戦場ジャーナリストというイメージの方であった。

こういった戦場ジャーナリストが書いた本や紛争地域の生活を書いた本を読んだことがなかったので、読んでみようと思ったのだ。佐藤さんが訪れる戦場や紛争、無政府状態の国家に興味はある。普段生活している日本や訪れた事のある諸外国など知っている世界と異なる世界とはどんな状態なのだろう。マスメディアを通した一部の情報ではなく、実際の市民の生活などはどのようになっているのか?といったことに興味を持つ。ただ、その好奇心とリスク(事故に巻き込まれるといったリスクから、観念的なリスクまで含め)を考えたら、そういった国に自分で行くという判断にはならないので、本で読んでみようと思ったのだ。

佐藤さんが取材した地域である、アフガニスタン、サラエボ、アルバニア、チェチェン、アチェ、イラクについて書かれている。戦場ジャーナリストとしての25年の活動から、いくつかのエピソードが紹介されている。この本は戦争や紛争などの政治的な背景が書かれていたりする本ではなく、あくまで戦地で暮らす現地の人と佐藤さんの日常が書かれている。その一例として食事があり、タイトルにもなっている。戦争が起きていようが、政府がなかろうが人は食わねばならぬ。人間の生命活動の最も基本的な行為を通して、戦場での日常を記している本だ。

この本は文書のリズムが良いわけではないので、すらすらとは読めないが、内容は面白くそして興味深く読み応えのある本だった。日本での普通の生活からは想像も難しく、全く自分の知らない世界の日常が垣間見れるこの本はすばらしい。戦時下の人々の生活、最前線で戦っている人々の生活、さらには無政府状態の国とはどんなものかということが分かる。

電気やガスがないホテルでじっとしていたり、兵隊とともに何日も歩き続けたり、アパートに居候しながら取材を続けたり、現地の人とビールを飲みながら語り合ったり、サイレンとともに空爆が開始されたり、目の前で銃撃戦が起こったり、入国までの長い道のりがあったり、牢屋にぶち込まれたりと、実に生々しいエピソードの連続だ。

多くの人が知る事のない戦場での生活や出来事を伝える。まさにこれが戦場ジャーナリストの仕事なんだろう。


関係ないけど、イランでの食事や食べ物の写真をハート形に加工(ネットで話題になっていたソフトを使いたかっただけw)

引用

1ヶ月半に及ぶ取材のテープを盗まれたあと、アフガンの親父に言われた言葉。
「今日、生まれたと思えばいいじゃないか」P31

タリバンのカノン砲の射程圏内でもある最前線から2キロほどの場所で
「ふと兵士たちの後ろに眼をやると、そんな光景がウソのようだ。長く髭を伸ばした老人が小さな手掘りの用水路でアルミの食器を洗っている。黙々と水を手にすくい、食器を磨く。兵隊たちにはも一?もくれない」P50

「「危険だから、行かないほうがいい」
そう忠告された事を思い出した。
まあ、そうかもしれないが、何かが起こりそうなのである。行かないわけにはいかない。それを、この身をもって体験し、伝えたい。未知の事に対する恐怖よりも、それを知りたいと思う好奇心の方が勝ってしまう、どうしようもない性格なのだ。
このジャーナリストという仕事に就いて以来、歴史が動くその瞬間に立ち会えると、ある種痺れがくるほど快楽を感じる。それで危険な目にあったとしても、ジャーナリスト冥利につきるというものだ。」P190

「若さとは、無謀なものである。若者は常にある種の冒険心を抱くものであり、冒険心とは、ややもすれば無謀な試みをしてしまうものである。」P207