モンブラン登山直後の思い

下山して、ロープウェイを動かしてもらうまでの待ち時間に書いたものです。

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初日のモンブラン登山の準備はクライミングだった。全くの想定外。モンブラン登山にはクライミングパートはほとんどないはずだから。
だから、重い荷物を持ってきてしまった。

そんなこと言っても仕方ないので、がむしゃらに、でも冷静に登ることを心がけた。

ザイルを結ぶガイドが俺をモンブランに登らせても大丈夫かのテストなのだ。実際にはクライミングパートはほとんどないが、高度化と山のテクニックチェック。お互い信頼を作り出せないと、命を託しあうことはできない、今回は人生で最大のクライミング。ミディの一番したまで降りて、大きな岩を数百メートル登った。展望台の柵をよじ登って帰還。なんとか死んでない。そんな風に思った。

さらに、1000メートル切れ落ちたナイフリッジを歩いてみたり。テストは続いた。お前は、高度化も体力的にも、技術的にも、大丈夫だとお墨付きをもらったときはほっとした。

さらに、天気がさらに悪化するとの判断から、急遽テストの後にそのままコズミック小屋に泊り、1日早いアタックに、ルートもグーテではなく、難しいスリーサミットにすると告げられた。
テストのハードさが嘘だつたかのように、小屋は穏やかで、豪華で旨い食事の時間だった。が、天気だけは悪化する一方だった。

飯を食いながら、周りのガイドさんたちとも登山やUTMB やキリアン、ジュリアンショリエ、日本の話で盛り上がった。UTMB にたいして、登山ガイドさんたちは、よくやるねと言う反応。逆にトレイルランナーからすると、技術のいるエクスペデイションな登坂はよくやるなと思う。

疲れもあり、早々に寝た。夜中一時に起きたが、雨風がすごすぎて、あきらめた。五時まで待って、雨が止んだので飯を食い出発。ただ、風がすごすぎるので、どこまで行けるかわからない前提で。

風に煽られ、数百メートル切れ落ちたクレバスを渡り、その青の美しさに心震えて、でも登りでそんな余裕もなく、ただ深い呼吸、足元の安全性、風の状態ばかり気にした。

風が強すぎて、耐風姿勢で耐えた。それでも飛ばされた。登りがつらく、キックステップで、足の筋肉が限界。さらに登りがきつくなり、頂上への稜線に出ると、もうどうしようもない風が。あと数百メートルで頂上。といってもモンブランモンテキュというモンブランスリーサミットの一番しただが。ガイドと相談した。ここで撤退するかアタックするか。

体力的、技術的、精神的に、さらにさらに天気は悪化するので、時間的にも限界だった。

正しい判断だったかは無事に下山した今でも分からないが、アタックすると破断した。

最後は急な岩場のクライミング。風を避けながら、ホールドを探し昇る

アラレとかひょう、雪が舞い、視界は引き続き悪い。落ちたら大ケガか死ぬ。慎重にでも強気で登らなければ時間が過ぎていく。

なんとか頂上にきた。嬉しかった。ガイドさんに感謝した。嬉しかった、ありがたかった。

でも、下りに危険は潜んでいる。急な岩場の下り。凍てついた氷もたくさんある。
滑らないように、慎重にでも思いきりよく。集中の連続。冷静に冷静に、ただ言い聞かせた。

核心部を終えた。心が緩んだのか、ただただ涙が込み上げてきて、溢れだした。どうしようもないくらいに、

でも、まだ、安全は確保されていない。下山までには、長い道のりと危険がある。

冷静に、冷静に。呼吸を深く、足元を注意して、遠くのトレースを確認しながら。

高度化はできているが、4000メートル超えは辛い。あとどれぐらいで下山できるかとか、皮算用はしないように心がけた。気が緩むと危ない。

今の一歩を安全に、ただただ下山するまで、一歩一歩を大切にした。
コズミック小屋まで戻った。正直ほっとした。でも、まだミディのロープウェイ直前の1000メートル切れ落ちたナイフリッジがある。

風がものすごくて、煽られたら、滑落だ。天気が悪化する前に、ナイフリッジを済ませたい気持ちと、心拍が上がりすぎ、足の筋肉が疲労しすぎて、誤った一歩を踏んでしまうリスク。両方を考えながら歩いた。

なんとかついた、ミディのケーブルカーは悪天候で止まっていた。それだけの悪天候だった。改めて良かった。一般の人が立ち入る領域にきた安心感があった。

ガイドさんに本当に感謝した。ありがたかった。嬉しかった。

モンブランの山頂モンブラン登山につには立てなかった。グーテからだったら上れたとか、天気が良ければということは確かにある。

しかし、自分の持てるすべてをつぎ込んだ二日間だった。精神的、肉体的、登山技術的、時間的にも。

残念だけど、悔いは全くない。自然を相手にするということは、こういうことなんだから。自然の流れに沿って生きたいと十年前ぐらいからずっと考えてきた。以前はそれを意識しすぎていた。でも、この二、三年はあまり意識しすぎていなかった。

自然の猛威に反しても自分のやりたいことエゴを成し遂げたい。そんな風にどこかで思っていたんだろう。でも、自然のあるがままを受け入れ、それに少しは逆らってチャレンジしても、一線は超えずに受け入れる。そんな風にいつのまにか思えるようになってきて、そうしたらやりたいことが自然の猛威で成し遂げれなくても清々しい気持ちさえ持つようになっていた。前だったら、成し遂げれなかったら不満に思ったり、時間がもったいないと思っていただろうけど。

もし、またモンブランに登りたくなったら来たらいいのだ。今は全くそんなことはないと思ってるけど。

筋肉、精神的疲労がたまっているのでUTMB まで、のんびり観光でもします。

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