UTMBを迎えるにあたって

UTMBを目前にして

ヨーロッパに来て、1週間がたった。今回の目的のひとつであるモンブラン登山は、悪天候の影響で、モンブランタキュールというモンブランスリーサミットのひとつに登り下山した。非常に残念だが、あの天候という条件下で自ら
の持つものはすべてだしきったし、天候に逆らってチャレンジしてもリスクがあるだけだ。だから、登頂はできなかったがとても
清々しい気持ちでいる。

モンブラン登山ともうひとつの旅の目的はUTMB だ。今回は仲間と参戦する。その仲間もレースを前にして、続々とシャモニ入りをする。あと数日で同じで合流する。それを前に、一人グリンデルバルトのキャンプ場にいる間に、UTMBを目前にして思いを書き残しておこうと思う。

そもそも、僕は運動が嫌いだった。もちろん陸上も球技も。運動会なんてなくなればいいとずっと思っていた。さらに、見るのも好きでもなかった。

そんな僕が、いつからか走り始めた。運動には興味なかったが、自分の経験したことのないこと、自分の知らないことを知りたい、自分で体験して感じ取ってみたいという気持ちは人一倍強かった。運動が嫌いというレイヤーよりも、もっと根底になんというか自分の生きるモットーのようなことが、知らないことを自ら体験して判断するということだった。やらずに語るより、まずは自ら行動して、体験して自分の軸で判断する。

この考えがあったので、想像もつかなかったが、フルマラソンという未知の世界も一度は体験してみたいと思っていた。確か、6年か7年前に、友達のこばちゃんから河口湖マラソンに誘われた。別に運動友達でもないが、僕がなんでも試してみる性格なのを知って誘ってくれた。彼は東大のトライアスロンサークル出身で、その仲間と出るとのことだった。だから、宿も彼らと一緒になった。

そんな彼らの中の一人に、先週山のなかを24時間走る大会に出て完走したという人がいた。フルマラソンでもとんでもないと思っていたのに、いったいどんなレースがあるんだと驚いた。それはハセツネという大会だと聞いた。

翌日の河口湖マラソンは、たいして練習もしていなかったが、4時間20分ぐらいで完走できた。もちろん後半は足がつり、棒のようになったけれど。

そんなことで、きをよくしたのと、全く考えもしなかった、山を徹夜で走るという世界も一度は体験しておきたいと考えた。

そして、そんな話をインドで出会った友達の池崎君に話すと、乗ってきた。これは出るしかない。河口湖マラソンの翌年にエントリーした。それまでの間は何もレースに出ていないことからも、走ることにはまっていなかったと思う。

当時のハセツネはハガキで応募した気がする。そして、直前になって準備をした。回りで山を走る友達なんて誰一人いないし、当時はトレイルランニングなんて言葉も知らなかった。ネットで探しても、たいした情報はなかった。

とりあえず、ハイドレーションのついたザックとシューズを買った。ただ、シューズは店員さんに聞いたら、少し小さめがよいとアドバイスされ小さいものを買った。これが大きな過ちだった。

山に走りに行く練習もせず当日を迎えた。何時間かかるかも分からないので、おにぎりやパンなどたくさん食べ物を持って走った。

すぐにシューズが小さくて足がいたくなった。冷静に考えれば、足はむくんでいくので大きいサイズがよいに決まっている。その頃は店員さんもトレランに対する知識がなかったのだろう。そんなこともあって捻挫を何度も何度もした。飛び上がるぐらい痛いこともあり、立ちすくんだ。さらに、ヘッドライトもショボいのひとつ。真夜中に走るのにどれだけ明るさが大切かも知らなかった。

そんな満身創痍だった。もうリタイアしたいと思った。けれど、今回完走しないとやり残した宿題のように来年またでなければ気がおさまらない、そんな性格だ。だから、今年なんとか完走して、来年出なくていいようにしようと思い走った。絶対二度と出たくない、何があろうと出ないという思いで走った。ゴール目前にして、町に戻ってきた。すると、応援してくれる人がたくさんいた。俺なんか誰だか知らないだろうに、精一杯声を出して、おかえり、よく頑張ったね、おめでとう。と声をかけてくれた。考えもしなかったゴールだった。この声援がとても嬉しかった。達成感というのだろうか、がむしゃらに戦って、それを讃えてくれる。大人になってから、そんな経験が少なくなっていた。だからこそ余計に嬉しかった。涙が込み上げるぐらいうれしかった。その瞬間にあれだけ走らないと決めたのに、また走ってもいいかもと少し思えた。

一緒に参加した友達は完走できず、来年も参加しましょう!といわれたが、その時は考えておくぐらいの返事しかできなかった。それからしばらくして、ハセツネをゴールした瞬間の喜びが忘れられなくなり、翌年のキタタンにエントリーした。夏で暑くハセツネより辛いという噂もネットに書いてありドキドキしたが、なんとか完走できた。すんごい汗をかいたあとのゴールと温泉ビールは最高に良かった。

このふたつの大会をへて、普段とは違う自然のなかで思いっきり走って子供みたいにはしゃいで、全力で挑むっていいなと感じた。もともと旅が好きで、国内海外いろいろなところにいったが、その場所も自然が豊かな場所や自然の大きさを味わえる場所だった。振り替えると、大学時代に少し山登りをしたのも影響していたのかもしれない。どちらにしろ、普段の仕事にはない、自然に触れられて、全力投球できる場所が心地よかった。そして、一人旅が好きなように、山を走るのは自分のスピードで好きなように一人でできるのも良かった。

そして、ハセツネは二年続けて出ることになっていた。このときは、既に山を走ること、トレランが好きになっていた。他の大会もエントリーし始め、できるだけ違う大会に出て、旅気分も味わった。もともと、一人でいるのが気にならないタイプだったこともあり、2年か3年は一人で大会にで続けた。それだけ好きだったんだと思う。一人で奥多摩や丹沢などに走りにも行った。

どんどんトレランにはまっていき、シューズやザック、サプリなんかも買うようになった。もちろん雑誌も。そんな中、UTMB という大会を知った。初めてハセツネに出たときに鏑木さんも出ており、その時お目にかかった方が出たという記事だった。当時から鏑木さんはトップランナーで、有名だった。そんな方が出たレースだからすごいんだろうなというイメージ。さらに、モンブランの周りの景色が日本では見られない景色で美しかった。極めつけは100マイル、160キロという距離だった。ハセツネの倍以上。ちょっと想像できなかった。自分からはまだ、遠い世界だと思いつつも憧れを抱いた。

トレランを続けて徐々に長い距離にもなれた頃、トレランの仲間ができた。心折れ部のだ。確か幻に終わった2011年UTMF の前に情報共有という感じの飲み会に参加して、そのきっかけで。その飲み会には、河口湖マラソンに誘ってくれたこばちゃんの知り合いもいたり、Twitterで何度もやり取りしている人もたくさんいた。飲み会のノリでUTMF の打ち上げで忍野トレイルに出ようとみんなでエントリーした。

この忍野トレイルに合わせるように、Tシャツはでき、みんなで一緒に参加して走った。これが実質的な心折れ部の誕生な気がする。

みんな気が合う仲間で、他の大会にも一緒に行ったり、飲み会をしたり、週末に山に行ったり、登山なんかも一緒に行った。どんどん仲良くなると同時に、一人で走っていた頃とは違う楽しさが生まれた。一人で走っているんだけど、実は一人じゃない。Alone Together だ。もちろん心折れ部の仲間もだし、家族やトレラン以外の友達も、仕事の仲間も。

さらに、仲間ができると、知識やノウハウも高まり、目標も高くなっていく。そうして、憧れだったUTMB が現実味を帯びてくる。おそらく一人でトレランをし続けていたらUTMB に出ていなかったか、もっと後に出ていたと思う。

それが、今年のたいかいにチームエントリーをしてみごと当選。憧れの舞台に立つことが許された。

それに向けてのトレーニングも積み重ねた。自分は弱い人間なので、完璧に納得が行く練習はできていない。しかし、心折れ部の仲間にも助けてもらい富士山には何度も通った。

完走できるぐらいのレベルにはなんとか仕上げてきているとおもう。ただ、自然相手だし、自分の体調もどうなるかは分からない。実は今までレースでは全て完走している。自らリタイアしたことも、制限時間に引っ掛かったこともない。だから今回も大丈夫とは全く思わないが、だからこそ今回も完走したいと強く思う。

大学時代から旅は好きでよくしている。写真も好きだ。登山も好きだ。本も好きだし、文章を書くのも好きだ。歩かにも好きなことはたくさんある。何が一番好きかは分からない。でも、トレランほど時間を使って取り組んできたことは他にないと思う。

そんなトレイルランニングの最も憧れの大会、それがUTMB だ。今回もらったチャンスをなんとかものにしたい。ここまでこれたのは、自分一人じゃない。壮行会を開いてくれた心折れ部の仲間、走るきっかけをくれたこばちゃん、ハセツネを一緒に走った池崎君、トレラン以外でも走れる体に育ててくれた家族、トレランばかりなのに愛想尽かさず付き合ってくれるトレラン以外の仲間、僕の夢を受け入れてくれ休みを許してくれた仕事仲間、それ以外にも初めてのハセツネゴールで声をかけてくれた方、本当に多くの支えのなかで、UTMB の大舞台に立てることになったんだと思う。

できる限りのことをして、笑ってゴールゲートをくぐりたいと思います。たくさん写真もとって100マイルの道のりを最高に楽しんで帰ってきます。最大限頑張ってきますが無理はしないつもりです。

それでは、UTMB 完走の報告ができることを願って、終わりたいと思います。

Alone together

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