Alone Together

Forget me not ワスレナグサ。
毎年年末に参加しているイベントだったけど、昨年はアコンカグアで行けなかった。
これは一昨年のワスレナグサ。

ひとりぼっちのForget me notだけど、そろそろ昨年のワスレナグサを書いてみようと思う。

【Alone together】

降り続ける雨の中をもう何時間も走り続けている。足は鉛のように重くなり、辛さしかない。歩きたい。でも、あと5分だけ走る。50キロ地点までは、次の登り坂までは、次の給水所までは走る。そんな風に小さな目標を何度も設定し続けて、なんとか気力を繋いでいる状態だ。歩いても何の罰がある訳でもないが、歩いて心拍数が落ちると一気に体が冷えきってしまう。それを防ぐためにも一定のペースで走り続けなければならない。

景色も変わらない、さらに雨で厚い雲に覆われて何も見えない世界をただ走っている。同じように走っている選手ともすれ違うが、何か会話がある訳でもない。10時間、20時間、40時間。そんなレースだと本当に脳を支配することが限られる。いろいろな考え事をしたり、風景をゆっくり楽しめればいいのだが、そうもいかない。考え事をしていると、木の根や石につまずいたりして捻挫をしてしまう。深いことは考えれず、辛いな、寒いな、足が痛いな、眠たいな、そんなことを繰り返し思うばかり。

西の空に日が落ちていく。電池交換をするのが億劫なので、できるだけレース中に交換せずに終えたい。そこで、薄暗くなってもギリギリまで我慢して目を凝らしながら走り続ける。真っ暗な世界をヘッドライトの明りを頼りに走り続ける。見えるのは数メートル先にヘッドライトで照らされた地面だけ。後は真っ暗で何も見えない森の中をひたすら前に前にと進む。天気が良ければ、空を見上げると満点の星空だが、雨の日に空を見上げても雨が顔に降りかかるだけだ。

暗くなると自然と睡魔が襲ってくる。もう、眠たくなる。瞼が自然と落ちてくる。歌を歌って意識をハッキリさせる。近くに知り合いがいれば話しかけて目を覚ます。それでもダメな時は、カフェイン入りのジェルを飲んで眠気を飛ばす。もう瞼が閉じてふらふらになる時にはカフェインの錠剤を飲む。なんとか目を開けて進むが、本当に眠気に勝てない時はサバイバルブランケットにくるまってトレイルで横になる。

偶然、仲間が前を走っている。少しだけ頑張って走り追いついて話しかける。ペースが異なるので、長い間一緒に走る訳ではなく二言三言はなして、別れる。けれど、この一瞬の会話が何よりも大きな転換点になる。リフレッシュ、気分転換が出来て、また新たな気持で走り出せる。その後も、ずっと1人で走る。黙々と前に前にへと。でも、同じトレイルのどこかで仲間が戦っている、そう思えるだけで力が沸いてくる。どこかでまた仲間とすれ違えるかもしれない。そんな淡い希望を胸に抱きながら、それと同時に仲間に負けたくないと言う対抗心を抱きながら。

長すぎるとゴールを具体的にイメージできない。ゴールしたら喜びが爆発するんだろうと言う感情はイメージできるが、それまでの体に訪れる変化、痛み、眠気。そして、天候やトレイルの変化は何が起こるか分からない。いったいどれだけたてばゴールに辿り着けるのか。

ただただ今この瞬間を前に前にと進むしか、ゴールに辿り着く道はない。そんなことの永遠なる繰り返し。その結晶がゴールだ。そんなゴールで迎えてくれる仲間。爆発する気持を共有できる。1人で走っているだけの競技だけれど、同じトレイルで戦っていると言う一体感が、走る僕に勇気と楽しみを与えてくれる。

送信者 モンブラン登山とUTMB2012

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