日別アーカイブ: 2012/10/13 土曜日

TJAR~トランスジャパンアルプスレース~ひとつ次元の違う世界

ハセツネは長い。
真っ暗な夜も走る。

おんたけウルトラはもっと長い。
オーバーナイトで朝を迎えても走る。

UTMFやUTMBはもっともっと長い。
2日もの夜を明かしてなお、走る。

TJARトランスジャパンアルプスレースは、長いと言う概念を越えている。
何度も朝を迎え、夜を乗り越え、また朝、夜、走り、走り、走り抜く。

距離にして415キロ。
日本海から北アルプス、中央アルプス、南アルプスを越えて太平洋へ至る。
トップで5日、制限時間、いや制限日数は7日間。
あまりにもスケールが大きくて、すぐにはイメージがわかない世界。

人間の想像力には限界がある。
1週間先のことを緻密に予測することは困難だ。
いわんや、変化の多い自然の中で、肉体も精神も極限に追い込まれた状態で。

2年に1度開催されるこの大会は、選ばれし人が出場する。
今年も実技試験、筆記試験をクリアした選手。
その数は30人にも満たない。

僕はUTMBに行く前に行われたこの大会をネットで追いかけていた。
選手が持っているGPSを元に、ネットで現在地がリアルタイムで表示される。
これをひたすら見ながら、ドキドキした。
僕も応援に行こうと思ったけれど、日程がどうしてもあわずに諦めた。
応援に行った友達の写真やコメントに胸を高鳴らせた。

そんなTJARの様子がNHKで放送された。
テレビはないが、スマホのワンセグで食い入るように見た。

偉大なる挑戦者達は、ただひたすら太平洋を目指した。
雨が降り、風が吹く。
足を痛め、眠気が襲う。
そして、制限時間が迫ってくる。
様々な状況をひとつひとつ打破しながら、ゴールへと。

どの選手にも大いなる挑戦であり、憧れであることは変わりないと思うが、レースに対する思いやきっかけは様々だろう。

「人間の潜在能力を確かめたい。」
「やれば出来ちゃうなってところがあるから、チャレンジしたい。」

「自分との戦い。挑戦ですよね」

「好きなことにチャレンジできることがあるのは希望」

「レースに出ることで、自分の知らない能力が出てくる気がする
どこまで走ることが出来るのか。」

「ゴールして始めて見えてくる部分があると思う
それは走ることだけではなくて、考え方とか生き方と言う部分で。」

「やるなら速いうちだなと言う決断をした
大きなチャレンジをして、達成すると言う、大きな満足がえられましたね。」

「自分に取って困難なことに挑戦して、それを乗り越えれば、何か得られる物があるのではないか。」

チャレンジすること。
自分の成し遂げたいことに近づくために日々努力を積み重ね、勝負に挑むこと。
その姿が、美しく、清らかで、かっこよかった。

前回に続き今回も優勝した望月さん。
その笑顔が印象的だった。

関門である市ノ瀬で、
「やべ、ワクワクしてきた」
「自然に帰ってくるわけだから」
「俺の場合、家に帰る感じ。」

自分が生まれ育った故郷南アルプスに辿り着いた時の笑顔。
本当に澄み切った笑顔。

全ての山を終えた。最後のロード85キロで彼はこう語った。

「何だったんですかねこの5日間」
「何だったんだろう。ワクワクだけじゃ済まなかったですね。」
「でも、勉強させてもらえることがあった。それがあるからいいのかな。」

5日間と言う長い間、究極の状態で果てしない自問自答、禅問答を繰り返しているようだった。
長い長い心の旅の途上。

そして、ゴールシーンはそれぞれの選手が、それぞれの時を味わっていた。

自分のワガママ、やりたいことをひたすらやって、やって、やって。
日々の生活では、周りに迷惑をかけることも多いだろう。
でも、それを暖かく迎えてくれる、家族。
挑戦が実を結んだ瞬間。

From 北岳間ノ岳2012