日別アーカイブ: 2008/6/19 木曜日

最も気に入った島(西表島)その1

前回の旅日記「多くは語れない新城島(パナリ島)その2」はコチラ

パナリ島を小さな小さな船で出た。
波にあわせて水しぶきを浴びる。
頭から足の先までずぶ濡れだ。
大きな船の通った後は波が来るので、エンジンを止めてその波をやり過ごす。
なんだか、こういう船に乗っていると、台風の日にワクワクして外に飛び出す子供心が蘇る。

1時間ほどで西表島の大原に到着した。
バスでぐるりと島を半周、白浜を目指す。

バスから川を見ると、ヒルギが植生したマングローブ地帯となっていた。
おお、西表島だと、実感する。
たいして離れていないのに、こんなにも植生が違うのかと不思議に思う。

バスの窓から吹き込んでくる風と太陽の日射しを感じつつ、しばしお昼寝。

寝ていたらいつの間にやら白浜に到着。
特に何もない町。
ここから船で船浮を目指す。
が、船の本数が極端に少ないので時間がたっぷりある。
もちろんバスの本数も少なく、バスと船の接続が悪いのだ。

荷物を港に置き、昼時で腹もすいたので、おそらく町に一軒しかない食堂へ。
トンカツ定食をいただく。

それから真新しい船で船浮を目指す。
船浮は西表島の一部。陸続きなのだが、道がなく船でしか行けない場所。
住民が40人ほどの集落だ。
集落自体も横200メートルで奥行きも30メートルぐらいの小さな小さな集落だ。

旅に出る前に調べていて、「奥西表という響き」、そして「陸続きなのに船でしか行けない集落」に惹かれ、盛り上がったからだ。
特に何がある訳でもないだろうと思っていたが、面白そうだなと思い行くことにした。

船浮に着くと真ん前に泊まる宿があった。
釣りにきている人が2、3人と夫婦で来ている人がいたぐらい。
休みのまっただ中なのに、ここまで人がいないのはいい。
パナリ島に続いて人のきわめて少ない集落巡りをしているかのよう。

小さな集落をまずは散策。
怪しげな資料館、そしてこんなに小さい集落なのに立派な小学校。
と思ったら、もう行き止まり。
本当にこじんまりとした集落だ。
小学校の裏に山道があったので、かき分けていくことにした。
いつものように、おそらく何もないと気づきつつ、進んで行ってしまうのは癖のようだ。

鉄塔があり、それを立てるために使った山道みたいだ。
だれも歩くことがないらしく、雑草、木が生え放題。
土は少し湿っていて、ツルッとなりそう。

何もないので帰ろうと、くるりと180度後ろを向く。
すると、来た道の先に広がる青い海が目に飛び込んできた。
ああ、これだ。これを見るために、登っていたんだと。

船浮集落の山の反対側にイダ浜という静かできれいな浜がある。
そこまで、てくてく歩いていく。

静かで落ち着いたきれいな浜だ。
両サイドに大きな岩があるので、この浜はどこまでも続く感じではなく、この浜だけで完結している。

宿に戻り夕食を食べた。
すぐ前には海が広がっていた。
夕陽がうっすらと空を染めあげる。
ほのぼのとした時間がゆっくりと過ぎていく。
どこかでおじさんとおばさんの話す声が聞こえた。
僕はちょっとビールが飲みたくなり、表の自販機でビールを買うことにした。

昨日もこんな時が流れたんだろう。そして明日もこんな時が流れるんだろう。
そう思うと、時が過ぎていく世界で生きていながら、僕は安心することができた。

その後、真っ暗な集落を散歩した。
どこか星を見るのに良い場所はないかと探しながら。
そうだ、小学校の校庭だな、と思い、校庭で寝転がる。
周りは真っ暗だし、なかなかの星空。
でも、校舎なんかの人工物があり、それらが目障りだ。

うん、行くしかないな。
イダ浜へ。
ヘッドライトを取り、虫除けスプレーをして山の裏のイダ浜へ。

何か光っている。すぐに分かった。
パナリ島で見たのと同じ蛍の幼虫だ。
ここはパナリとは比較にならないほど、地面一面に蛍の幼虫が光っている。
あっちでもこっちでも。
地面に星がちりばめられたかのように優しい光。

空を見上げれば降ってきそうなぐらいの星空。
ちょうど新月だったので、空は星だけの世界だ。
ふと視線を落とすと、成虫の蛍がふわーん、ふわーんと飛び、光っていた。
やわらかいひかり。

ああ、美しい。
幸せの国に迷い込んだかのように。
「夢の世界」いや「天国」と言われたら、これからはこの場所を思い出すんだと思う。
「天国」を想像してごらん、と問いかけられたら、自然と想像する世界が現実としてあった。
歩く足を止め、しばらくこの幸せな空間に満たされていた。

それから、イダ浜で寝転がり空を眺めた。
星は瞬き、何かを語りかけてくるかのよう。
時折、星が空を駆け巡る。
波は寄せては返し、涼しさを感じさせてくれる。

友達と二人で寝転がりながら、大学時代のことやら高校時代のことやらを話した。
高校時代の部活の事、小さい頃に抱いていた将来の夢。
誰もいない天国の浜辺で寝転がりながら、星を眺めて語り合う。
空を見上げながら話していると、「あっ」星が流れた。

こんなにも暖かい心になれるなんて、なんて幸せなんだろう。
夢にまで見た憧れの地ウユニ塩湖で感じた発狂するような喜びや幸せとも違う、穏やかな幸せ。
何もかもが、ほどかれていくような幸せは、人生で何回目だろうか。
中国で誰もいない砂漠を歩き、そして真ん丸な夕陽が落ちていき、砂山の上で満天の星を眺めたとき。
一人ガラパゴスの船のデッキで寝転がりながら、星空に包まれたとき。
出会った旅人とチチカカ湖の湖畔コパカバーナの宿の四面ガラス張りの最上階の部屋で朝食を食べたとき。
夕暮れの屋久島いなか浜を裸足で駆けたとき。

この光景を死ぬまで忘れないだろう。
ずっとこの空間に包まれていたかった。
この場所から離れてしまうのが寂しくも感じたけど、普段の生活の中でふとこんな時を過ごせたことを思い出したら、心安らぐ気がした。


旅の続きはコチラ「最も気に入った島(西表島)その2」


沖縄(八重山/西表島)旅の写真はコチラ

http://teratown.com/OKINAWA2008.html