見えない世界を見る

ダイアログ・イン・ザ・ダーク

もう10何年前から知っていたが、一度も行ったことがなかった。真っ暗な世界を視覚障害の方のガイドで体験する場。確か、芸大に通っている時に講演に来てくださって、知っていたのだが、なんだか機会がなかった。千駄ヶ谷から少し歩いたところに常設の場ができて数年ほど。R卒業祝いで友達のタクさんの会社のSOWギフトをもらって、その中のひとつがダイアログ・イン・ザ・ダークだったので、予約して行ってきた。

そもそも、暗い場所が好きで、リラックスできるのでお風呂の電気を消して入るのは小学生ぐらいからやっていると思う。そして今も。アウトドアが好きになってからは山とか島に行って夜の自然も好き。静かな暗闇にいると心が安らいで落ち着くのだ。

ガイドである視覚障害の方の最初のインストラクションで、お客さんに不安だと思いますが安心してくださいねという言葉に、ああ、そういう気持ちになる人もいるのかと勉強になった。暗くなると不安という発想が自分の中にはなかったので。

まずは白杖という視覚障害の方が使っている棒をもらって、徐々に暗い部屋へと移っていき、目を慣らす。おお、行き届いたおもてなし。徐々に暗くなっていき、全く何も見えない世界に。おお、真っ暗だ。隣の人も誰も見えない。目を開けていても目を閉じても一緒ですから、頑張って見ようとせず、好きな方でリラックスしてくださいねと。まあ、当たり前なんだが、見えることに慣れているので、ついつい見えないはずなのに見ようと頑張ってしまいそうだった。

6月ということで、梅雨をイメージした部屋があった。地面には土があり、水の音やカエルの鳴き声が聞こえる。縁側に畳。そこに座って、寝転がる。見られていないと思うと、好き勝手な姿勢ができる。気楽だ。逆に視覚って重要なんだなと思う。いろいろと話す。芝生のエリアに座る。

暗い場所にはなれている。風呂とか山とかで、と思っていた。でも、山はなんだかんだ明るい。月とか星とか。風呂は窓がないので、ほぼ完全に暗くなるのだが、狭い。行動範囲が限定的なので、場所も全て覚えているし何の問題もない。広い範囲で、今まで見たことのない場所を完全に暗い場所で歩くとなると、慎重になる。白杖を持って、地面を探りながら。当たる音や反発の度合いでそれが何かを想像しながら。目が見えないから、もっと聴覚とか触覚が敏感になるかと思ったが、それほどでもなかった。

畳に座り、知らない6人が集まった会だったが暗い世界だと会話が弾む。ガイドのユカさんも話がうまいのだが、それだけじゃなく見えないと会話が弾むのは、変なコト言ってしまっても見られていないから恥ずかしく無いという作用があるからなのだろうか。

それから、カフェでビールを飲む。もちろん真っ暗なカフェ。瓶ビールとコップとおつまみが出される。ビールを暗闇でコップに注ぐ。こぼしてしまいそうで、ドキドキするが重さとコップに指を入れて量を判断。けっこうなんとかなるもんだ。

それにしても、視覚障害の方は見えなくてもコップを歩いて運ぶ際に水をこぼさない。平衡感覚が優れていることに驚く。次々と気になることが出てくる。自分が見えない世界を実体験すると、いつも見えない人たちはどんな感覚なのだろうとか。生まれた頃は見えたけどあとから事故などで見えなくなった人と先天的に見えない方との感覚の違いとか。

例えば、見えないから、形とかを立体的に想像する力が長けている?立体の算数のクイズとか得意なのだろうか?とか、聞いてみたが、特別そうじゃないと思うと。ただ、比較したことないので分かりませんと。目の見えない方にとっての色の概念とはなにか?これも、なかなか無茶な質問だった。明るいとか暗いとかそういうイメージは持っていて、それぞれが認知しているっぽかった。

また、顔とか見えないので、声を聞いただけで、イケメンだなともうこともあるのか聞いたら、視覚障害者友達とカフェに行って、声を聞いてイケメンそうだねと話たりするとか。

再び、少し明るい部屋へと移動する。普通の明るさからすると圧倒的に暗い部屋。ぼんやりとしたほのかな明かりがあるだけ。でも、そんな些細な明かりだけでも、真っ暗に慣れていたのですべての物が把握できる。完全に見えないという世界とハッキリではないが少しだけ見える世界。そこには大きな差があるんだなと気づいた。

最後に、ダイアログ・イン・ザ・ダークじゃなくて、ダイアログ・イン・ザ・サイレンスとかダイアログ・イン・ザ・タイムとか色いろあるらしい。面白そう。音のない体験や年をとった体験などなど。そして、聴覚障害の方がダイアログ・イン・ザ・ダークに訪れることもあるという。視覚も聴覚も完全に閉ざされた世界。果たしてどんな世界がそこにはたちあがってくるのだろうか。今回ガイドしてくれてユカさんは、目が見えないから、音がない場所に行く勇気はまだないと話していた。

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