アラスカ物語11(最終章) 旅の終わりは誰もいない町で霧に包まれた

前回のアラスカ旅日記はこちら「アラスカ物語10 さて、帰るか。」

朝起きると、宿の前にタクシーが待っていた。真新しいSUV(Sport utility vehicle) をおばさんが運転していた。名前を告げ、フェアバンクス空港までとお願いする。まだ暗い町を抜けて空港に。早く着いたので売店を見てみるけれど、やっぱりお土産は買う気になれない。エスキモーの顔が描かれたアラスカ航空の飛行機を見て待ちぼうけていると、滑走路の向こうから太陽が昇ってきた。やっと、日の出だ。

送信者 ALASKA 2009

アラスカ航空機に乗り込む。数日前に宿のネットで予約をしたのだけれど、今回もベストな座席を確保した。どんなベストかと言えば、デナリを望むのにもってこいの席。フェアバンクスからアンカレッジに南下する。すると右手にデナリは見える。かつ、日照時間が短いこの時期は太陽が出ている時間のフライトでなければならない。もちろん、眺める時に尾翼が邪魔にならない後部座席。こんな条件が整ったフライト&座席で飛び立った。

送信者 ALASKA 2009

窓にかぶりつきながら、外を眺めていた。雲は多少出ているが、全ての景色を覆ってしまう程ではない。それにしても、アラスカの大地はでかい。何にも無い大地が永遠と続いている。山はまっ白な雪に覆われ、蛇行した川は凍っている。朝日を浴びた起伏のある山々を眺めていると、斜め前にひときわ大きな山が目に飛び込んできた。もしかして、あれはデナリ(マッキンレー山)だ!こんなにもハッキリと、目の前でデナリを見たのは初めてだった。大きく鋭い形をした山だ。どんどんデナリに近づいていき、真横にデナリが並んだ。すぐそこに、デナリがある。あの、デナリだ。

送信者 ALASKA 2009

北極圏のコールドフットからフェアバンクスに戻るセスナの中から見たデナリは遠くに霞んでいた。距離が離れていたのもあったが、曇っていたことも大きな理由だった。ただ、今回は違う。デナリの真横を飛んでいる、そして雲はない。ハッキリとデナリの輪郭が見えた。初めてのアラスカで、こんなにも美しいデナリを見てしまっていけないんじゃないかと思うぐらいの雄姿。デナリの真横を通った時は、登山家が登っていたら見えるんじゃないかと思うほどの近さだった。もしかしたら植村さんが見えるんじゃないかと思ってしまう。これだけ近づくと、やはり植村さんの肉体に接近していると生々しく感じた。そして、このデナリに畏怖の念を抱いた。

送信者 ALASKA 2009

そして、デナリは後方へと過ぎ去っていった。顔を窓につけて、去り行くものを惜しむように後ろを見つめつづけた。飛行機の高度は下がりはじめ、海に浮かぶ氷がハッキリと見える。見ただけで凍えそうになる世界だ。旅の終わりはアンカレッジに立ち寄った。デナリはあんなにも晴れ渡っていたのに、アンカレッジは濃い霧に覆われていた。こんなにもすごい濃霧は生まれてはじめてだ。5メートル先が見えないほどだった。さらに、寒いと来たら過酷だ。

送信者 ALASKA 2009

空港に降り立つと、バスがあるはずだった。電車が走っていても良かった。それらを目的に歩いたけれど、どちらも運行していなかった。そう、今日は正月なのだ。空港にも人はまばら。到着した人は自家用車か、誰かが迎えにきている。しかたない、タクシーかと思ったら2,3台とまっていた。アラスカの歴史や文化を見る事が出来る博物館に行こうとしたら、タクシーの運転手が今日は休館日かもしれないと言う。やさしい運ちゃんは、iPhoneで電話番号を調べて、確認してくれた。すると、案の定休み。しかたない。空港でもやることはないので、とりあえずダウンタウンまで連れて行ってもらった。ノードストロームという有名な百貨店の前で降ろしてもらい別れた。

送信者 ALASKA 2009

うん、人がいない。車がいない。店は閉まっている。霧で何も見えない。寒い。腹減った。笑えてきた。なんだこりゃ。アラスカの州都というのがギャグのようだ。アンカレッジはアラスカ州の中で最大の町。といっても27万人だから僕が生まれ育った岐阜市の40万人と比較しても少ない。だいたい徳島市ぐらいの人口なのだ。そうだよな、徳島市に元旦に訪れても何もすることはないだろう。うん、納得だ。さらさらの雪をけりながら、半ばヤケクそ気味で散歩を楽しんだ。

送信者 ALASKA 2009

ノードストロームが入っている大きなショッピングモールをふらつき、フードコートでハンバーガーを食べた。最後にこうなるとは、旅って想像もしない事がおこって面白い。今回は笑える。でも、こんなんで終わらない。オヒョウを食べられる店があるというので、夕食のオープンまで待って行ってみたけれど休み。ガーン。オヒョウは植村直己さんが北極圏1万2千キロ横断の際に釣って食べていたので、一度口にしてみたかったのだけれど。

送信者 ALASKA 2009

もういい。アンカレッジは十分だ。空港に戻ることにした。しかし、タクシーが見つからない。公衆電話も見つからない。とほほ。20分ぐらい待って何とかタクシーをひろいアンカレッジ空港に。
タクシーの運転手に聞いたら、昨日の夜はみんなで飲んでるだろうから、今日は家にいるんだろうね。なんとアンカレッジの国際線は1月1,2日で出発した便は1便のみ。それに搭乗するのだ。もちろん売店もやっていない。空港に人がいない。職員も乗客も。なぜなら出発が夜中の3時。さらに、ニューヨーク発アンカレッジ経由台湾行きの便でアンカレッジから乗り込む人が少ない。

送信者 ALASKA 2009

本も読み終わってしまったし、本当にやる事が無い時間を空港で過ごして、真夜中発の飛行機で飛び立った。台湾に着いたとき、ああ戻ってきたなと実感した。こうして、今回のアラスカ旅を終えた。

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