日別アーカイブ: 2009/10/30 金曜日

流れ着いた島は日本中で最もやさしさが残る場所

今年の9月19日から23日までは5連休で、ゴールデンウィークをもじってシルバーウィークと呼ばれた。そんな連休の初日に鹿児島県の硫黄島では八朔踊りが行われることを数ヶ月前に知り、飛行機のチケットを取っていた。連休の1ヶ月ほど前に、定期船のスケジュールを見たらなんと、この連休のタイミングで船の定期検査があり、定期船は出ないという。なんという運の悪さ。でも仕方ない。そこで、ブログに書いて尋ねてみたり、役場に連絡したり、船のチャーターを計画したり、鹿児島の友達に連絡したりと行くための手段をなんとかして確保しようとした。

すると、友達の協力もあって直前に船を確保できることになった。枕崎から硫黄島まで釣り人に便乗して漁船に乗せてもらうという計画。しかし、またしても運が悪いことに大型の台風が太平洋上に存在していた。出発の前日に船長さんに電話すると、「明日は波が高いから、むりやなー。4メートルから6メートルぐらいかね~」てな感じ。うぐぐ。残念すぎるけれど、鹿児島までのチケットはすでに買ってしまっているので、18日(金)の夜に羽田空港を飛び立ち鹿児島へ。ゴールデンウィークに続いての鹿児島だ。空港からのリムジンバスは驚くほど並んでいた。


甑島(こしきじま)の地図

バスに乗り鹿児島市内へ。天文館で降りて事前に予約してあったホテルへ。荷物を降ろして、鹿児島に住んでいる友達と飲みに行く。友達は明日から徳之島へ行くと言う。友達の地元の友達も一緒で、彼は甑島(こしきじま)に住みカヤックのガイドをしていると言う。硫黄島に行こうと思っていることを話すと、明日は無理だろうと言われた。やっぱり無理だよなと思いながら、どこかいい場所はないかと尋ねる。屋久島や種子島もいいが、屋久島に一回行ったことがあるのと、海上に流木が大量に流れ高速船が出ていない状況だった。さらに南にあるトカラ列島は今年の5月に行ったし、たった5日では時間が足りない。もっと南の奄美大島、喜界島、徳之島も同様に時間が足りない。すると、台風の波の影響もない、鹿児島の西に浮く甑島がターゲットとなった。この島に関する知識はトシドンという年末の行事しか知らない。それ以外は皆無で島の大きさやどこから船に乗るかなども分からなかったが、とりあえず串木野から船が出ていることを聞き、明日の行き先は甑島(こしきじま)とした。

夜中の1時ぐらいまで飲み、ホテルへと帰った。すると友達の家の真裏のホテルだったことが分かって、二人で驚く。こんなことってあるもんだ。鹿児島に到着して数時間の間に色々と驚くことがあり、夜は更けていった。


鹿児島市内のバス乗り場


串木野新港

朝起きると天気も良く、船が出るかもと淡い期待を抱きつつ船長に電話。「今日は船でますかね?」「今日は無理やねー。釣りの人たちはキャンセルしたもんでね~。」「そうですか、やっぱり無理ですか。」「台風の波があるもんでね。」「分かりました、ありがとうございます」ってな感じで、あっさりと硫黄島の旅は散って行った。さあ、甑島だ!まずはバスターミナルへ行く。串木野までは路線バスで向かった。バスでゆられること2時間近く。串木野の町中が終点で、降りると串木野駅まで歩いて向かった。ここから串木野新港までバスが出ているはずだったが、あと1時間以上バスがないので、歩いて港まで行くことにした。非常に天気が良く海岸沿いをぶらぶらと歩くと気持がいい。13時30分の高速船シーホークの出発までしばらく待合所で待つ。待合所の畳で喪服を着た15人程度のおじちゃんおばちゃんがいなり寿司なんかを食べていた。島へ法事か何かで渡るのだろうか。


高速船シーホーク

1時間ほど待ち、シーホークへ乗り込む。甑島(こしきじま)は大きく分けて上甑島(かみこしきじま)、中甑島(なかこしきじま)、下甑島(しもこしきじま)の3つに別れ港は5つある。さて、どこへ行くか決めずに高速船に乗り込む。なぜなら、どの港で降りても串木野から3610円という一律料金だからだ。船の中で行き先を考えようと思っていたら、船の中で寝てしまって、何も考えず最初の港である手打港に到着。高速船は大きなフェリーと違ってデッキのような外に出れないから、退屈なのだ。せっかく船に乗ったのに海の風を感じられないなんて嫌だ。だから、もういいやと思い、手打港で降りる。


手打港

降りた人たちは地元の人ばかりの様で、家族の迎えが着ていたり、歩いて集落の方へ行った。バスも止まっていて高速船と連絡しているようだったのだが、地理感覚もなくいったいどこへ行くかも分からないので、とりあえず港をうろちょろしていた。すると、誰も人はいなくなっていた。バックパックの中にはテントと寝袋をもっていたし、簡易的な食料もあったので、なんとかなるやという気持もあった。とりあえず集落がある方を目指して歩く。すると、すぐに軽トラックが横を通る。おっちゃんが声をかけてくれて「何処行くの?」「民宿を探してまして、どこかいい宿ありますか?」「そこに見える、白い家が民宿だね」「ありがとうございます。」「車に乗って行くかい?」「歩いていけるので、大丈夫です。ありがとうございます。」さっそく民宿の場所を発見。さらにてくてくと歩いていると、また車が止まる。次は親子で車に乗っている。お母さんが「どうしたの?」「民宿を探してます。」「あの辺りに民宿が何軒かあるよ。」「ありがとうございます」ってなかんじで、歩いているとほとんどの人が声をかけてくれた。


海岸

今まで日本を旅した中では一番やさしい人が多かった気がする。甑島の中でも特に下甑島、その中でも手打の集落は本当に優しい人ばかりで、この後も声をかけてもらったり、助けてもらった。それから民宿を横目に歩く。海岸が見えたので、民宿はそっちのけで海岸沿いを楽しく歩いていた。また集落があったので、その中へ。すると、おばあさんに声をかけられ、先ほどと同じような会話に。どこの民宿でも良く、決定打がないなーと思いながら歩いていると、今度は車に乗ったおじさんに声をかけられる。「何処行くの?」「民宿を探してまして、どこかありますか?」「ああ、そう。もし良かったらうちも民宿やってるから、どうですか?」「じゃあ、お願いします」と言って、車に乗り込む。偶然だ。旅とはこういった偶然に身を任せるのが一番いい。車に乗せてもらって、手打を案内してもらう。神籠石という見張りを昔していたという大きな石、地元の運動会、伊勢エビ漁をしている漁師さんの家など。


運動会から帰る少年たち


神籠石からの眺め

それから今日の宿である磯口旅館へ。荷物を置いて、自転車を借りて島の中を巡る。まずは、下甑島郷土館。お客さんは全くいないので館長さんがつきっきりで説明してくださった。家々が武家屋敷であること、江戸時代の話し、キリスト教が入ってきたときのこと、ヤンハ踊りやトシドンなどの民俗芸能のことなどなど。こういった島の歴史を知ると、島の存在がぐっと身近になる。それから宿の主人に夕日が綺麗だと聞いた釣掛埼灯台へ行こうとしたが、2本急な坂道がありどこから行っていいか分からなかったので近くにいた人に聞くと、坂道は自転車で無理だからと軽トラックの荷台に自転車を乗せて灯台まで連れて行ってくれると言う。ありがたい。本当に下甑島の人はやさしい。お言葉に甘えて車に乗ると、灯台よりも夕日が綺麗なところがあるという。灯台より少し上にあるキリシタン殉教地だという。キリシタン殉教の地から灯台までは下るだけなので、自転車があれば楽だということで、キリシタン殉教地まで車で乗せてもらった。本当にありがたい。こういった優しさには感謝とともに心が安らぐ。


下甑島郷土館


下甑島郷土館

キリシタン殉教地は遮るものがなくいい場所だったが、灯台と夕日を写真に収めたいと思い、灯台まで降りた。すると、本格的な虫取り網をもったおっちゃんがいた。この島には珍しい虫がいるらしくて、取りにくる人がいるようだ。そんな人とすれ違い、灯台へ。西日に染められた灯台は独特の暖かみと寂しさをもっていた。誰もいないところにポツリとそびえ立つ灯台を見ていると、どこか知らない異国へ連れ去られてしまいそうな怖さも感じた。


夕日に染められた灯台

夕日を見た後、自転車で山を降りる。びゅーーんと下っていたら道を間違えてしまう。道に迷い山の反対側に降りてしまったら、山を越えて帰るのが大変だなーと思っていたら、集落の裏につながっている道に出てほっとした。宿に戻り夕食を頂く。もう一人宿泊者がいて、その方は島の診療所に勤めるお医者さんだった。甑島はDr.コトーの主人公となったお医者さんがいる診療所がある島で、磯口旅館にはその方も泊まっていた。美味しいご飯を食べ、話しをしながらビールを飲んだ。さて、今日も1日が終わる。偶然流れ着いた甑島では初日から非常に楽しむことが出来た。そして何よりも、手打に住む人々の純粋な優しさに心を打たれた。今まで日本を旅した中で一番親切な方が多い島だとつくづく思った一日だった。


夕日

そういえば、この優しい宿のご主人は阿佐ヶ谷に住んでいたらしい。それも南阿佐ヶ谷であそこの吉野家には良く通いました。と超ローカルトーク。宿帳に僕が阿佐ヶ谷と住所を書いたら、そんな話しで盛り上がったのだ。奥さんがこの島の出身でご主人は島に東京から移住したそうだ。それにしても、そんな偶然もあるもんだ。


夕食

お風呂に入り、星でも見ようと外に出る。磯口旅館の目の前は海で砂浜が広がっている。真っ暗な海にヘッドライトをもって行く。寝転がりヘッドライトを消すと満点の星空が広がっていた。本当に星がたくさん空にちりばめられていた。あー、また遠くまで来たなー、旅っていいなー、と一人でつくづくと感じながら、波の音を聞き星空を眺めた。天の川が見えるほど星空は美しかった。1日を存分に楽しみ、眠りについた。


星空

[同行者募集!]9/19~硫黄島(鹿児島)の八朔踊りに行きませんか?
※この旅から戻りすぐ甑島のトシドンはユネスコの無形文化遺産に指定された。

旅日記の続きはコチラ「こうやって行き先は変わってゆく。」